第69話 静かな夜
ナーガ族のアビルにラミアの襲撃から助けてもらった
俺たちは二手に別れそれぞれ小屋に入った。そこには大きなベッドが一つとそばに小さなキャビネットがあり、上には火の消えたろうそくが置いてある。
四人で寝るには少々小さいがまあなんとか入るだろう。
俺はシャリンとピヨの間に横になった。ピヨとポリーンは寝転がるとすぐにすうすうと寝息を立て始めた。
「今日は助かったよ、次から席をはずすときは声をかけてからにするな」
俺は隣のシャリンに小さく話しかけた。シャリンは同じく小さな声で一言ん、とだけ返す。
「あとあのスカーフは洗って変えすよ。その、俺がいなくなったのよくわかったな」
少し間があった後、シャリンが答えた。
「それは、お前が席を立ったのが見えたからだ。用をたすのには遅すぎると思ったんだ、男はなんか早いだろ」
「やっぱりシャリンが気づいてくれたんだな」
俺の言葉に彼女は体の向きを変え少し縮こまった。
「私でなくともわかることだ」
そしてシャリンはもうなにも言わなくなった。
次の日の朝、顔を洗った後アビルのもとへお礼を言いに行くと、彼は朝食を俺たちに振舞ってくれた。他にも彼の家族らしき人たちが数人集まっており、皆テントの下でおかゆのようなものを食べている。
お椀の中には粥状の雑穀が入っている。今思い返すと白米だけの主食はとても贅沢だったように思う。
「よお坊主よく眠れたか?悪いなベッドが一つしかなくて。まあほらとりあえずこれ食えよ」
そう言うとアビルは皿に盛られた佃煮のようなおかずを差し出した。味の無いおかゆにはぴったりだなと思い手を伸ばしたとき、それが魚ではなく虫だということに気がついた。
俺は咄嗟に伸ばしかけた手をひっこめた。よく見ると小さなバッタのような姿をしている。これがいなごの佃煮というやつか。
横では皆おいしそうに食べている。ここではカエルに引き続き普通なのだろう。
「わたくしむ、虫は初めてです……」
どうやらフィリアナも俺と同じらしい。彼女は俺を見ると苦笑いを浮かべた。
「どうしたアリスガワ、具合でも悪いのか?」
俺は心配してくれているシャリンに大丈夫だと告げた。ここで食べなければやはり失礼に当たると思い、一つ取って口に入れてみた。
味は見た目どおりの佃煮で殻のようにパリパリとした食感がある。実物さえ見なければおいしい。
朝食の後、俺たちはアビルに次の行き先を告げそこまで案内してもらうことにした。