第56話 幻の糸、アラクネ族 1
森の中でゾンビのような原生生物に襲われた一行
短い悲鳴と落ちる音が聞こえた後、二体は糸が切れたように再び地面に倒れこんだ。
「この、この悪者め!」
ピヨが草むらに倒れている何者かを蹴りつけている。おそらく木の上にいたところを攻撃されたのだろう。
「い、いや、やめなさいこの」
「これは……」
俺はシャリンの横に立ちその犯人を覗き込んだ。体は女の人間だが足が無くその代わりに大きな蜘蛛の体が付いている。
「アラクネだ、うわさは聞いたことがあるが見るのははじめてだ」
珍しそうにしているシャリンを横目に俺はピヨを止めた。髪は黒くて長く、フードをかぶり、上半身は裾にレースの施された長いスカートで覆っている。それから手には鉄の爪のついた不思議な形の手袋をはめている。
そこへニーナがやってきた。俺とシャリンを押しのけずんずんと近づいていくとアラクネの女の服をつかみ持ち上げた。
「あんたねこの襲撃の犯人は!覚悟しなさい!」
「わ、私、はあの、その、す、すいません」
女は口ごもりながらもごもごと謝罪の言葉を口にしている。ニーナに短剣を突きつけられヒッと肩をすくませる。
「ニーナ、離してやれ、今すぐ命をとることは無いだろ」
俺の言葉にニーナは不機嫌そうに鼻を鳴らし、アラクネを地面に落とした。
「で、なんでこんなことしたんだ」
「え、えと、私、ネクロマンサーを目指してて、で、たまたまあなたたちが通りかかったから、ち、ちょっと腕試ししてみようと、お、思って」
どうやら俺たちを実験台にしようとしていたらしい。好奇心からというか本人にそこまで悪気はないようだ。
「あ、あなたたちこそ、こ、こんな森の奥で、な、なにしてるの?」
俺は今までの経緯を女に伝えた。
「な、なるほど、それは大変でしたね、では、私の村で少し休んで行ってはどうですか?」
「うむぜひそうさせてもらおう、食料もないことだしな」
ニーナ以外皆シャリンの言葉に賛成した。