第398話 夜の浜辺
ついに密林を脱出するもそこに人里はなかった
騒がしかった砂浜が再び静まり返る。自分でもびっくりするぐらい大きな声が出てしまった。全員が目を丸くして俺のことを見ている。今までこんなふうに怒鳴ったことなどなかったからなのだろう。つい苛立ってしまった。俺だってわからないのだ、どうしてよいのか。とりあえず今は冷静になるしかない。
驚き静まる仲間を背に俺はその場から離れた。どこまでも続く海辺をただひたすら歩く。凪いだ海の生暖かい風とさざなみの音が頭に上った血を鎮めていく。だが冷静になったところでどうにかなるものでもない。住人が避難したのならどこかに別の村があるはずだ。しかしその村はここからどれだけ離れているかもわからない。そこまでたどり着けるかどうか、案内がいなくなった今下手に動けば危ないのはあきらかだ。
俺の心が沈んでいると同調しているように周囲がどんどんと暗くなってくる。一度みんなのところに戻ろうか。でてくるのは生気の無いため息ばかりだ。とりあえず先ほど怒鳴ってしまったことを謝ろう。
引き返すとみんなは焚き火を囲んでキャンプを立てていた。
「さっきはごめんな、大きな声出して。ちょっと焦っちゃってさ」
変な空気になるのが嫌で、俺は明るく振舞うよう努めた。みんなは少し驚いたような顔をしたが特に何も言わなかった。ここにいる全員、同じようなことを思っているのだろう。重い空気の中、フィリアナが口を開いた。
「大丈夫ですよ、わたくしも少し冷静さを欠いてしまいました。旅をしていれば壁に当たるのは当然です。今までだって解決策をみつけてきたじゃないですか」
彼女の言葉に俺はカラ笑いで返した。今俺たちにできることは別の村を探すこと、もう腹をくくってそうするしかないのだろう。少ない食料をかき集め夕食をとった。この人数だ、数日ともたないだろう。焚き火を消し、各自眠りにつく。夜番のヴェロニカは座りタバコをふかしている。
澄んだ空に浮かぶ黄色い月、本当ならばきれいだと感じるべきだろうが今の俺にとっては明るすぎる。眠れないのだ。寝返りをうって波の音に耳を傾ける。それでも眠れない。体はとても疲れているはずなのに、無理に目を閉じようとするとぐるぐるとめまいがして気持ち悪くなってくる。
仕方が無いので起き上がり少し歩くことにした。明るすぎる満月のおかげで浜辺ははっきりと照らされている。黒い水面に月明かりが反射し、キラキラと輝いている。座っているヴェロニカは俺のことを振り向くことなくタバコをふかし続けている。月に誘われるようにしばらくふらふらと砂浜を歩き続けた。どうしようもなくなって地面へ腰を下ろす。
ただぼーっと寄せては返す波を見つめる。波は目の前にある大きな黒い岩にぶつかり砕け散ってゆく。今俺たちは一体どのあたりにいるのだろう。それすらもよくわからない。自然とため息が口から漏れる。
「お兄さん、どうしたんだいそんなに暗い顔をして」