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第397話 静けさと焦り

ロビスオーメンに案内されついに密林を脱出した一行

 今度はどんな村だろう。きっと人間が住んでいる場所だろうから俺とシャリンでまずは偵察だ。旅のための物資もだいぶ減ってしまった。水や食料も補給したい。自然とみんな早足になる。


「よし俺とシャリンで様子を見てくる。みんなは少し待っていてくれ」


 俺はシャリンとともに村へ足を踏み入れた。ひさびさの人里だ、歓迎されないとわかっていてもなんだか浮き足立ってしまう。やっと密林を抜けたこともあり気が大きくなってしまう。だが村の様子がなんだかおかしい。規模が小さく人も少ないのはよくあることだが今のところだれも見かけていない。それどころか何の音も聞こえてこない。耳に入ってくるのは遠くで聞こえるさざなみの音だけだ。


「だれもいないのかな、それとも俺たちを警戒しているのかな」

「うむ、少し家を回ってみよう」


 俺は近くにあった民家の扉を叩いた。コンコンという乾いた音が静かな村に響く。


「ごめんください、どなたかいますか?」


 返事は帰ってこない。恐る恐る扉を開けてみる。家の中は暗く、だれかが住んでいるという気配が全く無い。それどころか家具は倒れ、床はボロボロで到底住めるような環境ではない。まるで嵐が過ぎ去った後のような有様だ。


「アリスガワ、どの家にも人がいないぞ。それにすべて壊れている」


 シャリンの言葉にサーっと寒気が走る。まさか、もうこの村に人はいないのか?だがあの二人はあると言っていた。行く場所を間違えたのだろうか?それからしばらく探索してみたが結局なにも発見できなかった。あるのは壊れた家だけだ。


 心に灯っていた希望の火がフッと消えるのを感じた。今まで大変なことも多かったがきっと良い方向へ行くと信じてがんばっていたのに。密林の果て、何も無い海岸沿いで朽ち果てた村。急に寂しくなってきた。まるでこの世界に俺たちだけがぽつんと残されたそんな気分だ。ロビスオーメンの二人ももう帰ってしまっただろう。今さら聞きに行くことはできない。


 頭が真っ白になっている俺にシャリンが話しかけてきた。


「見たところによると嵐か洪水に合ったようだな。それで仕方なく住民全員で避難したのだろう。ここにいても仕方ない、みんなのところへ戻ろう」


 俺はシャリンに引かれるようにその場を後にした。そしてこの話を聞いたみんなは予想通りがっかりした顔をした。


「ええーどうするのよ、ここまで来たのに!」

「まあまあニーナさん落ち着いて、なにか策はあるはずです。冷静になって考えましょう」


 ニーナを初めみんな怒ったり、不安そうな表情を浮かべている。そんなこと言われても、俺だってどうして良いかわからないのだ。自分が責められているわけではないと頭ではわかっていてもどうしてもそのリアクションに苛立ってしまう。


「ど、どうするのよ、い、一度引き返す?」

「私はもう密林に戻るのはごめんだわ」


 セシリアとローレンが話している。


「私の酒がない!姉さん全部飲んじゃったの?!」

「しょうがねえだろ傷が痛いんだ、ごちゃごちゃ言うな」

「ピヨもっとあっち見てくるね」

「だめだよピヨちゃん一人で行ったら、危ないよ」


 目の前には廃墟と化した村、後ろには路頭に迷った仲間たち。どうしようもない怒りと落胆、焦りで何も考えられなくなる。辺りを見回しても何も無い、他の場所を探すか?でもどっちに向かっていったら?もしその先に何も無かったら?一旦戻るか?でもその間にまた何者かに襲われたら、物資は足りるか?


「ねえ、兄さんてばどーすんのよ。早く人里探さないと私手が震えておかしくなりそうだよ」

「カルベネさん待ってください、あっピヨちゃんだめだよ」


「もううるさいな!ちょっと黙ってくれよ!!!」


 俺の怒鳴り声が静かな砂浜にどこまでも木霊(こだま)した。

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