第389話 勝利の敗北
捨て身の特攻によりループに一撃食らわせたエレナーゼ
「ボス、ボス大丈夫ですか?!」
エレナーゼの攻撃を受けたループのもとへ続々と部下が駆け寄ってゆく。一方先ほどの一撃で体力のすべてを使い果たした彼女は地面に落ちると着地もろくにできず倒れこんでしまった。部下たちが心配そうに煙の中を見つめる。これはまずいかもしれない、もし自分たちのボスが殺されたと知ったら逆上して襲い掛かってくるだろう。俺はすぐに倒れているエレナーゼのもとへ走った。
「おい大丈夫か?立てるか?」
ふと嫌な予感がして後ろを振り返る。そこには全身に火傷を負いながらも立ち上がるループの姿があった。血走った目に逆立った毛、俺は一瞬にして命の危機を感じた。早くここから立ち去らなくては。
「ハア、ハア、このクソアマ、よくもやってくれたな。女相手だと思って手加減していたがもういい、殺してやる!お前たちかかれっ!」
その号令を待っていましたと言わんばかりに一斉に部下たちが襲い掛かってきた。しまった!俺の仲間に助けを求めようにもこの距離では間に合わない!たどり着く前にバラバラにされてしまう。どうにかエレナーゼだけでも逃がしたいが俺一人では到底止めることはできない。目の前には何十匹というロビスオーメンの大群が歯をむき出し迫ってきている。
「エレナーゼ立て!早く、逃げるぞ」
「ごめんなさい私はもう無理、あなただけ行きなさい。みんなのもとへ走れば間に合う」
そんなことできるわけないだろ!そう言おうとした時、目の前に一本の矢が突き刺さった。ちょうど俺と人面犬の間に飛んできた。まるで戦いを止めろ、と言っているかのようだ。敵も何事だと足を止める。
「そこまでだ、これ以上の蛮行は許可しないぞ人面犬ども」
矢を飛ばした犯人はアマゾネスたちだった。レオナを先頭にぞくぞくと加勢に入る。それを見たロビスオーメンたちは恐れをなして引き下がってゆく。心強い味方の登場に自然と詰まっていた肺の空気が流れていった。しかしそんなことでやすやすと引き下がる相手ではない。
「何をしている、さっさとあいつらを皆殺しにしろ!遅かれ早かれ全員殺すんだからな」
傍にいた部下たちは一瞬、戸惑った表情を見せたが再び戦闘体勢に入る。それに感化されアマゾネスたちも武器を構え警戒する。
「ハハハ、女、残念だったなお前の負けだ。よくやったと褒めてやる、俺をここまで怒らせたやつはお前が初めてだ」
あざ笑う声が焼けた密林に響き渡る。それを聞きレオナの隣にいた狼女がうなり声を上げる。
「なんだとてめぇ言わせておけば、自分が劣勢になったとたん大勢で襲い掛かるなんてやはり卑怯でアホな犬どもだ」
そうだ、もとはと言えばエレナーゼとループ二人だけの勝負のはずだ。まあこうなることは予想できていたが。とりあえずこの隙に負傷した彼女を連れて逃げよう。確か首を噛まれていたはずだ、早く手当てしなくては。俺は倒れているエレナーゼを抱きかかえようと手を伸ばした。
「待って。ええ、その通り勝ったのはあなたよ私の負け。私は自分の負けを認める」
エレナーゼの口から放たれた言葉はまるで吹雪のように俺の体を凍りつかせた。なんだって、今なんと言った?アマゾネスたちも同じように目を見開いて固まっている。だが一番驚いているのは言われた当人のループであった。