第388話 猫対犬、終わり無き戦い 2
ループの横柄な態度にキレてしまったエレナーゼ
一瞬強張ったループの喉もとへエレナーゼが食らいつく。それを相手は咄嗟に体をよじらせすり抜けた。すかさずそこへ爪が飛んでくる。猫パンチなんていうかわいいものじゃない。顔の肉をえぐろうとする恐ろしい鉤爪だ。
さすがあれだけの攻撃をさけた敵将なだけあってなかなか攻撃があたらない。しかしそんなことは知ったものかとエレナーゼはむちゃくちゃに攻め続ける。二頭の獣が争うときのように二人は上体を持ち上げ前脚をぶつけあった。ひっかこうとする彼女の爪をうまく払うループ。その戦いぶりにだれもが息を潜め見守った。近くにいた俺でさえなにか介入してはならないような気持ちになったのだ。
そのときエレナーゼが前脚を敵のわきに入れ抱き上げるような形になった。危機を察したループがすぐさま彼女の首に食らいつく。エレナーゼの必死な抵抗は敵の余裕すら奪っていた。でもまずい、このままでは首を食いちぎられてしまう。女の命を取ってしまおうがきっとこの男は鼻で笑って終わりにするだろう。
だがエレナーゼは逃げることをせず組み合ったままボロボロの翼を広げた。一体なにを考えているのだろう。そう思ったとき彼女が上体を前に傾け翼の角度を変えた。次の瞬間、突風がどこからともなくフィールドを駆け巡った。俺のマントは翻り同時に顔を腕で覆う。これは偶然か?いやきっとエレナーゼの風魔法だろう。突風はまるで姿があるかのように灰を巻き上げながら二人のもとへと向かっていった。
風に押され帆を張ったヨットのようにエレナーゼの体が前方へ押される。さすがにこらえきれなかったのかループも押され、後ろへと倒れこんだ。ついにエレナーゼが敵を押さえ込んだのだ。しかしそれで終わりではなかった。突然やってきた風はそのまま彼女の体を押したのだ。
組み合ったまま地面を滑るようにして二人の体は動いていく。このままひきずるつもりか?でもこんなのじゃ大したダメージにはならない。それどころか敵は首に食らいついたままなのだ。依然として急所を取られているのは彼女だ。彼らが押されてゆく先、それはループが座っていた大岩。まさか、このままあの岩に激突するつもりでは?!敵もそれに気づいたようで慌てて口を離した。
「ま、待て!なにをするつもりだ!くそっ離れろ、だれかこの女を止めろ!」
「口を離したあなたの負けね」
エレナーゼは岩に当たる直前にループから腕を放すと、彼を蹴り飛ばし宙を舞った。一方、蹴られたほうは一直線に岩へと飛んでゆく。だがそこは爆撃を逃れたほどの男、すぐに体勢を戻すと四肢をクッションに岩を受け止めた。全身を打ったが致命傷にはなっていない。
しかし激突を免れほっとしている彼は気づいていない、宙に舞い上がったエレナーゼがまだそこにいることを。空から放たれた二本の火球が弧を描きループの背に直撃した。