第387話 猫対犬、終わり無き戦い 1
ループに全力の魔法をぶつけたエレナーゼ
焼け野原でエレナーゼの姿を探す。まさか巻き込まれてしまったのか?そんなことはさすがにないだろう。いくらなんでも自分の身は守っているはずだ。そうだ、あの瞬間自分だけ安全な場所へ避難したのだ。だったら岩影か木の上か。そのとき未だ燻る煙の中から動物の影が姿を現した。エレナーゼは無事だったようだ。
「大丈夫か?走れるか?この隙に今すぐ逃げるぞ」
「どこへ逃げるんだ?」
低い男の声、まさか……。風が吹き煙をさらう。なんとそこに立っていたのはループの方だった。俺は足を止めた。なぜだ、あの業火の中で生きているなんて直撃したはずだ。
「エレナーゼ!エレナーゼ!」
俺は彼女の名前を必死に叫んだ。そんな馬鹿な!なぜこいつが生きていてエレナーゼがいないのだ。さすがこれだけの群れをまとめるボスだ。魔法は使えないがその力は半端じゃないということか。
「私はここにいる」
望んだ声に振り返るとそこにはボロボロになったエレナーゼの姿があった。美しい毛並みは黒くこげ、髪も焼けてしまっていた。それでも生きていてくれたことに涙が出そうになる。だがだいぶダメージを受けているようで四肢が震えている。
「ものすごい攻撃だな、あんなもの初めて見たぞ。恐ろしい女だ」
「あなたこそ、生きているなんてね。恐れ入ったわ」
こんなに激しい攻撃を受けたのになぜかループは余裕そうだ。まさかすべて避けたのか?
「お前の魔法とやらは強い、だが動きを読むのが簡単だ。まだやるのか?もういいだろ俺は女に手をあげるのは好きじゃないんだ」
余裕そうなループに対しエレナーゼは言葉を飲んだ。近接でも遠距離でも勝てない、そう思ったのだろう。これ以上戦っても無駄だと。仕方が無い、ロビスオーメンたちが引いている今がチャンスだ逃げるしかない。俺はエレナーゼに目配せをした。だが彼女は再び目線を目の前の敵に向けた。
「逃げるならあなたたちだけ、私はここに残るわ」
「なに言ってるんだそんなことできるわけないだろ。今みんなを呼ぶから」
彼女の言葉にループは笑った。
「そうか、ついに俺を認める気になったか。女は強い男が好きだ、自然の摂理さそういう風にできている」
「お前のそういう態度が気にいらねえって言ってんだよ!」
獣のような叫び声が焼け野原に響いた。一瞬耳鳴りがした。エレナーゼの知性に満ちた瞳が、優雅な体が余裕を失い一匹の獣へと姿を変えた。毛は逆立ち歯をむき出しにし敵へと飛び掛ってゆく。無謀だと思っていても止めることができなかった。その勢いに相手も一瞬体をこわばらせる。
その隙を彼女は見逃さなかった。俺の横をものすごいスピードで通り過ぎると敵の喉もとへと食らいついた。