第386話 密林の征服者、ロビスオーメン族 4
ロビスオーメンのボス、ループと戦うも押し負けたエレナーゼ
一瞬、二人の時間が止まった。お互い微妙な距離を開け睨み合っている。ループはニヤニヤとしながら息を荒げるエレナーゼの様子をうかがっているのだ。降参するのを待っているのだろう。だがこの勝負、彼女にとっては引けない戦いとなってしまった。
「どうした、もう終わりか?」
すると彼女は体をかがめ、翼を広げ始めた。火の粉が宙を舞う。なんだか周囲の気温があがってきている気がする。
「みんな、みんな隠れて!早く早く」
突然ピヨが慌てたようにみんなの背中を押しだした。まさかエレナーゼは力を溜めているのか?魔法に詳しくなくても雰囲気でわかる。俺は言われるまま近くの木の裏に身を隠した。燃えるような熱風がびりびりと肌に当たる。それを近くで感じているループはもう気づいているはずだ。なのに逃げようとしない。避けられるという自信があるのだろうか?
「いいの?仲間を退却させなくて」
「退却?どうしてそうする必要があるんだ」
彼は未だヘラヘラと笑いながら知らぬ顔をしている。あえてエレナーゼの神経に触れているのだ。
「そう、だったら全員くだばれこのクソ犬ども!!」
次の瞬間、彼女の体を火の柱が包み込んだ。炎は竜巻のように渦を巻き空に上がるとまるで豪雨のように敵に降り注いだ。集まった重たい業火の塊がゴオオという音を立てゆっくりと弧を描いて飛んでゆく。髪を焼くような熱風とエネルギーによる地響きに俺は自然と顔を伏せた。いつも使用している火柱が上がる技、あれを一斉に使用したのだ。どのような結果になるのか恐ろしくて数秒後に襲ってくる衝撃に体が震える。
岩のふちからわずかに視線を覗かせたとき、空を幾千もの赤い線が覆っていた。夕焼けに染まった青空は時間とともに地へ落ちてくる。ロビスオーメンの仲間たちも口を開け空を見上げている。夕日が地面についた瞬間、轟音とともに地面が揺れた。鼓膜を吹き飛ばすような爆発音と皮膚を引き剥がすような熱。次々と上がる火柱に視界が埋めつくされてゆく。目の前が真っ赤に染まり、二人の姿がかき消された。
俺は襟をぐいとつかまれ後ろに引かれた。
「あんた危ないわよ、目を焼かれたいの?」
見とれていた俺をニーナが助けてくれたのだ。その後、岩の後ろに隠れながら地響きが過ぎるのを待った。ゆっくりと顔を上げると二人のいた場所は一面、黒こげになっていた。こもる熱は使用後のオーブンのようだ。慎重に岩から身を乗り出す。立ち上る煙を押しのけるようにエレナーゼの姿を探す。
「エ、エレナーゼ?大丈夫か?いるなら、ゴホッ、返事をくれ」
熱せられた鉄板のようになってしまった地面に素足の彼女は立っていることさえ難しい。早く見つけ出して連れ出さなくては。魔法は強力だと思っていたがまさかフィールド一面を崩壊させてしまうほどの力があるとは。以前エレナーゼが言っていた言葉が頭をよぎる。優秀な魔道師は自分の力をコントロールできる。ただ力任せに魔法を放てばいいわけではないと。
今その理由がはっきりとわかった。過ぎた力はただ人を驚かすだけでは済まないということだ。