第385話 密林の征服者、ロビスオーメン族 3
ロビスオーメンのボスに挑んだエレナーゼ
この戦いにロビスオーメンの仲間たちは歓声を上げ興奮している。皆、口々に自分のボスに声援を送る。
「初めに自己紹介をしておこう俺の名はループ、女どもからはアルファとも呼ばれている」
「あっそう、たいそうなお名前ね。それじゃあ私からでいいかしら」
自慢げに自己紹介する彼をエレナーゼは鼻であしらった。俺は隣にいるカルベネにこっそり話しかけた。
「エレナーゼなら楽勝だな」
「私は猫女に賭ける、兄さんは?」
「おいそれはずるいだろう」
楽観的な俺たちとは対照的にピヨは浮かない顔だ。
「どうした、なにかひっかかることでも?」
「う、うーん、エレナは強いけど。だけどなにか嫌な予感がするんだー」
ピヨがそう言うなんてめずらしい。彼女はエレナーゼの実力をよく知っている。もしかしてこれは一悶着あるかもしれない。目の前では戦いを仕掛けようとエレナーゼが体を低くする。
すると彼女は体に炎の輪を纏い始めた。火はぐるぐると高速で回転し、まるで丸ノコのように鋭いブレードになった。敵が近接攻撃を仕掛けてくるとわかってのことだろう。先手を打ったのだ。これで容易に近づくことができない。
「火の魔法か、これは恐れ入ったな」
ループが次の一言を発する前にエレナーゼからの一撃が入る。弧を描いた火の玉は着弾とともに火柱を上げた。それを見たロビスオーメンたちは音と熱に驚き、咄嗟に後ずさる。だが連続した攻撃をループはうまくかわされてゆく。火と火の合間をかいくぐりエレナーゼへと接近する。
彼女の攻撃の弱点は時間がかかることだ。威力は高いが、着弾までにわずかにタイムラグが生じる。その一瞬で逃げられてしまうのだ。それに軌道も読みやすい。
ループはものすごいスピードで駆け寄ってくると上空へ飛び上がった。彼女の纏っている炎の輪を避け、上から攻撃するつもりなのだ。小隊のリーダーが言っていたボスは強いというのはどうやら本当のようだ。しかしエレナーゼもこんな攻撃には当たらない。さっと後ろへ下がり回避した。
「ほうなかなかやるみたいだな、ひさびさに楽しめそうだ」
そう言うと再び彼女へ向かってゆく。真正面から来たと思えば目にも止まらぬ速さで回り込み、火の輪の下に体を潜りこませた。そのまま前脚をエレナーゼのわきへ差し入れそのままひっくり返した。これには周囲から歓声が上がる。俺も一瞬呼吸をするのを忘れていた。
「ハハハ、降参か?」
「誰がするかっ!」
エレナーゼは体をくねらせると蛇のようにするりと拘束から逃れ体制を立て直した。
「そうこなくてはな」
ループはそうつぶやくとエレナーゼへ向かってゆき、前脚でもて遊ぶようなジャブを繰り出す。本気でないとわかっていてもすばやく彼女は防戦一方になってしまっている。この近距離ではいつもの技が使えないのだ。火の輪も消えてしまっている。
「どうした、さっきの手品はもうおしまいかい?」
余裕な彼に対し、エレナーゼは息を荒げている。もしかしてピヨの予感が当たってしまったのかもしれない。