第381話 崖っぷちの戦い 1
アマゾネスの村からでたところで新たな敵に遭遇した
歩み寄ってくる人面犬に俺は声をかけた。
「なにか用かな?」
「へへぇ俺たちを知っているみたいだな。あの女獣人どもに聞いたか。崖沿いを通れと、そうも言われたみたいだな」
まるで俺たちがここに来るのをあらかじめ知っていたみたいだ。どこで偵察をしていたのかはわからないがただで逃がすつもりはないらしい。
「俺たちは争うつもりはないし、縄張りを侵すつもりもない」
リーダーらしき人面犬の男はぺろりと舌なめずりをした。
「そうだなぁ、ただ通行料は払ってもらわないとな。荷物をすべて置いていけ。それからボスはお前らとの面会をご所望だ」
荷物をすべて渡した上に、丸腰で敵陣へいかなければならないのか?敵は三人、いや違う、よく見ると俺たちの後ろにもう三人、茂みに二人潜んでいる。なるほどここまで強気に出られるのはこのせいか。囲まれないようこの道を選んだが、逆に戦いづらくなってしまった。敵の位置がわかるだけ不幸中の幸いということか。
「ほら俺に続いて歩け」
人面犬の男が行こうとしたときセシリアが前へ出た。
「いいえ、お前たちについて行くつもりはない。いい気にならないでよ、数が多いだけの烏合の集のくせに。人間の顔がついているだけで考えは犬そのままね」
彼女の挑発に敵の目の色が変わる。セシリアはそれを跳ね除けるように剣を抜いた。そのとき草むらから一人、人面犬の女が飛び掛って来た。
「待て勝手に動くな!」
「うるさい、こっちが優しくしてやってんのに生意気な人間どもだ!別に死んでようがかまわないだろ!」
リーダーの制止を無視し、短気な女がセシリアへ攻撃を仕掛けてきた。細長い脚から繰り出されるジャンプはだれも反応できないうちに一飛びで彼女へと到達する。死角からの一撃に戦いに慣れたセシリアでさえ目を見開き体を一瞬硬直させる。
「させるかよ!」
そこへカルベネがものすごいスピードで横から女へタックルを食らわせた。彼女の山羊の足はニーナに匹敵するほどの瞬発力とチーム随一の跳躍力を生み出している。初めは戦闘に向かず、人間と大した変わりの無い種族だと思っていたサテュロス族だったがはやはり人間とは違う。
全員が動けないでいる中、彼女一人だけが拘束から解き放たれているような天性の運動神経の良さを感じる。だが今回はその運動神経の良さが裏目に出てしまった。人面犬の女にタックルを食らわせそのままもみくちゃになりながら、崖から転げ落ちてしまったのだ。
俺よりも早くセシリアが崖へ駆け寄る。そのまま彼女まで追って行ってしまいそうな勢いだ。
「ちょっ、カルベネ!カルベネ!返事しなさいよ!まさか落ちたなんていうんじゃないでしょうね」
「セシリア、セシリア落ち着け、なあお前まで落ちるぞ」
俺は肩を掴み彼女を引き戻した。近くに敵がいるのもはばからず落ちたカルベネを探そうとしている。そこへ同じように仲間を失った人面犬たちがこちらへ寄ってきた。