第377話 力の証明
今度はシャリンが狼女を追い詰めた
シャリンに一杯食わされた狼女は息を荒げ肩を上下させている。
「ハァー、くそっやるじゃねえか驚いたぜ。チビのくせに少しは戦い方を知っているみたいだな。だが同じ手は通用しないぞ!」
「それ以上は待ちなさい!」
反撃しようと息巻く狼女を凛々しい声が制止する。村のほうから数名、別の獣人が姿を現した。それを見て女の手が止まる。先頭に立ち声をかけたのは賢そうな顔をしたライオンの獣人だ。
「なぜ止める、こいつらは私が見つけたんだ。どうしようと勝手だろう」
「またお前はそうやって。すまない旅人よ、危害を加えるつもりはなかったんだ。リナック放してやりなさい」
そう言うと檻の隣で待機していた猿女が動き出した。リナックと呼ばれた女は仕方なさそうに牢屋の鍵を開ける。
「なぜだ!くそっいい気になっているなよ、お前など叩き潰して……」
「わからないのか、お前はすでにあの猫娘にやられていたのだぞ」
毛を逆立て興奮する狼女へすれ違いざまにさとすように告げる。それを聞いて狼女はくやしそうにうなった。
「私の仲間が無礼なことをした、謝罪する。私はレオナ、皆にそう呼ばれている。傷の手当が必要だろう、どうかしばらく泊まって行ってくれ」
ライオンの頭をしたレオナは俺たちにやさしくそう告げた。ありがたい話だが、なんというか俺だけ居心地が悪すぎる。今も後ろのほうで幼い子供たちが何者かと俺のほうをじろじろと見ているのだ。
村のほうへと案内される。その間にもすれ違う村人たちは俺のことをじーっと見つめてはひそひそと噂話をしているようだ。なるべく早くここを出たいものだ。戦っていたシャリンはというと腕を爪で切りつけられてはいたが命に別状はなかった。一人で檻から出て行ったときはどうなることかと思ったが無事でいてくれてよかった。
「みんな心配かけたな、すまなかった」
「ほんとよ、なんであんなことしたの。せめてあたしに声をかけてもよかったのに」
シャリンは申し訳なさそうに笑った。ニーナの言うとおりだとみんなうなずく。
「でも、あのレオナだっけ?あいつが言ってたあんたの勝ちってどういうこと?勝負はついてなかったみたいだけど」
それは俺も不思議に思っていた。一瞬、有利にでたが結果としては振り払われてしまったのだ。前を歩いていたレオナが振り返る。
「あの時お前が持っていた短剣で首を落とせた。違うか?」
「……そう、だな」
シャリンは口ごもるように答えた。なんとあの時、手加減していたというのか。
「だが私の短剣では致命傷をあたえることはできなかっただろう」
「はは、謙遜するか。そうだとしてもお前の勇姿は本物だ。どうだ、私たちと暮らさないか?お前のような勇敢な戦士を求めている」
「気持ちだけ受け取っておこう」
レオナは肩をすくめ再び前を向いた。その後俺たちは彼女のはからいで食事にありつくことができた。