第376話 牙を剥く女たち、密林のアマゾネス 4
体格の違う相手に対し不利な戦いに挑んだシャリン
ずんずんと音を立てこちらへと向かってくる。先ほどの戦いで完全に火がついたらしい。このままでは一人ずつやられてしまう。だがこの狭い檻の中で有利に戦えるのはシャリンかセシリアぐらいだ。そして肝心のセシリアはもう一つ隣にある檻に閉じ込められている。ここにいるのは体の大きなニーナとフィリアナ、それからカルベネだ。
「待てよ……まだ私は戦えるぞ」
狼女の後ろからシャリンの声が聞こえた。あれだけダメージを食らいながらもなんとか立ち上がろうとしている。そんな彼女の姿を見て狼女は舌なめずりをする。
「ほぅ、まだやるってのか。なんだってお前はそんなにむきになっている。ああ、わかったぞ、お前この男のことが好きなんだろう?」
図星をついたようにニタリと笑みを浮かべる。
「心配するな、こいつはお前がまだ息のあるうちに目の前で殺してやるよ」
「好き?確かにそうだな。仲間が侮辱されて黙って見ている私ではない。必ず謝罪させてやる」
シャリンが仲間として俺のために怒ってくれている、そう思うととても胸が熱くなる気がした。今まで自分のために命をかけてまで行動してくれてた友人がいただろうか?
「謝るのはお前のほうだ!!」
立ち上がったシャリンへ狼女が突進してゆく。今度こそ殺してやるといわんばかりに勢いそのままパンチを繰り出す。シャリンはそれを避け手首を切りつけた。だが硬い毛皮に阻まれその刃は皮膚にわずかな傷をつけただけだった。
すかさず反対の手が伸びてくる。今度は狼の爪がシャリンの腕を捉えた。肉がえぐられ血が流れる。
シャリンは痛みに顔をしかめ後ずりした。
「ハハハ、どうやって私を倒すんだ?時間稼ぎか?いらつかせやがって」
短気な狼女はなかなかシャリンに手が届かないことに苛立っている様子だ。ガバッと腕を広げ一気に止めを刺そうと身を乗り出す。シャリンの姿が女の背に隠れてしまった。まずい、どうなったのか確認できない。檻の中では歯がゆい思いで皆、固唾をのむ。
そのとき女の足の間をくぐりシャリンが出てきた。あの瞬間、身をかがませ攻撃を避けたのだろう。
そのまま背後にまわると飛び上がり、自分の二倍ほどの背丈のもある狼女の首へと飛びついた。胴に足を回し首を絞めにかかる。
「ぐっやるじゃねえの」
横顔で狼女が笑っているのがわかる。急所を押さえられながらも余裕なのはその体格差のせいだろう。軽いシャリンなどいつでも振り払えるというのだ。だか首についたままのシャリンは腕に力を入れ、腰に巻きつけている足を支点に全身をのけぞらせるようにして体重をかけた。
急に後ろへと引かれた狼女は勢いに乗っ取られバランスを崩し、同じように背をしならせる。思わぬ攻撃にあわててシャリンの腕に手をかけはずそうとするも顔が上を向きうまくいっていない。これにはただ傍観していた猿女も飛び起きて驚いている。
さすがに体の大きさもあり後ろに倒すことはできなかった。狼女は全身をよじりなんとか力任せにシャリンを振り落とした。