第372話 揺れる橋
渡ろうとしていた橋が落雷により崩壊してしまった
橋が落ちてしまったせいで俺たちは仕方なく迂回ルートをあきらめ直線で進むことにした。獣人たちの縄張りだそうだが端のほうなのできっと気づかれもしないだろう。来た道を上流のほうへと戻ってゆく。しばらく行くとまた別の橋が見えてきた。
古びているがきちんと渡れそうだ。始めにピヨとポリーンを通しフィリアナに続くよう促す。彼女は怖いのか端の入り口でなかなか進まない。
「大丈夫だよ、下を見ずに進めば」
「え、ええ、わかっています。でも私が乗ったら落ちそうで」
そうこうしている間に先に進んだ二人は橋を渡りきっていた。向こう側からフィリアナを呼んでいる。
「ほら大丈夫だってゆっくり、足元に気をつけて」
フィリアナはみんなに励まされ恐る恐る歩みだした。古びた橋はギィと小さな悲鳴を上げる。だが太い綱としっかりとした木で作られているのできっと大丈夫だ。彼女が半ばまで差し掛かったとき、突然カルベネが後ろから橋を渡りだした。
「おい馬鹿!待て!」
「へっへへぇー私も行くよー」
わざと跳ね、橋を揺らす。縄で形作られた橋は左右にハンモックのようにゆらゆらとしだした。フィリアナは動きを止めすごい形相で振り返る。
「カ、カルベネさん止めて下さい!ちょっと、落ちちゃいますって」
「ほらほら、早く行かないとー落ちるぞー」
上下に飛び跳ねるカルベネのせいでガタガタと音を立てる。これにあせったフィリアナは慌てて橋を渡りきった。こちらまで心臓が止まりそうだった。悪ふざけが過ぎる。向こう側ではフィリアナが肩を落とし息を荒くしていた。戦闘の後でもここまで息の上がった彼女を見たことが無い。
「なあー渡れただろ?こんなもん一気にいっちゃえば」
言い終わらないうちにカルベネはフィリアナに掴まれると崖のほうへと投げ飛ばされた。
「うおおぉーあぶっ危ない、危うく落ちるところだったぞ!」
ぎりぎりのところでなんとか上半身で崖につかまりこらえたようだ。緊張から怒りへと変わったフィリアナは何も言わず脚を踏み鳴らし歩き始めた。あんなに怒っている彼女もなかなかめずらしい。みんなも橋を渡りつつ驚いている。
落ちそうになっているカルベネを横目に通り過ぎてゆく。
「はあはあ、ちょっみなさん、私をおいていかないで」
自業自得だ。ポリーンでさえ助けようとしない。すれ違いざまにセシリアは残念とつぶやいた。再び深い密林へと足を踏み入れた俺たちは警戒しつつ進む。いたるところから聞こえてくる動物の音に、恐怖心がそそられてしまう。声はすれど姿は見えない、この光さえ通さない木々に視界が遮られる。
ついでに足元も見えない。もし蛇やサソリを誤って踏んだら大変だ。そんな感じで余所見をしていた俺は前を歩いていたフィリアナのけつにぶつかってしまった。
「あっ悪い、ちょっと余所見してて」
「しっ静かに、どうやらわたくしたちはつけられているようですね」
もう毎度のことなので驚きはしない。きっと獣人たちが先ほどの騒ぎを聞きつけてやってきたのだろう。獣というだけあって耳がいいのだ。さて今回も無事に脱出できるといいが。そんなことを考えながら俺は辺りを見回した。