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第370話 待ち伏せする花

ポリーンの看病によりヴェロニカが目を覚ました

 ヴェロニカが復活してから二日間、俺たちはコボルトに世話になりながら休憩をとった。ピヨは子供たちと一緒に楽しそうに走り回っている。こうして見るとまだまだ幼い感じがする。肝心のヴェロニカはというとポリーンにはやし立てられながらも看病され、火傷はだいぶ良くなった。


 出発することを告げると彼らは金や銀、宝石をお礼にと俺たちに分けてくれた。


「なんか申し訳ないな、いいのかこんなにもらって」

「アンタラ、イノチノオンジン。レイヲスル。ソレデアンタラ、ドコヘイク?」


 俺は地図を見せこれから行こうとしているところをコボルトたちに教えた。それを見て彼らはうーんと首をかしげる。


「ココカラサキ、キケンダ。デカイジュウジンノ、ナワバリ。ハイッタラコロサレル」


 でかい獣人?この先に獣人たちの村があるというのか。それもなんだか友好的ではなさそうだ。不本意ではあるが迂回すべきだろう。俺はコボルトたちに礼を言ってキャンプをたたんだ。名残惜しいが先に進まないわけにはいかない。それにずっと世話になっているのも申し訳ない。


 日中なのでヴェロニカはフィリアナの背に乗って移動している。なにも話はしないが旅についてきてくれるようだ。迂回していくとなると当然遠回りになる。早くこのうっとおしい密林から脱出したい気持ちと安全に進みたい気持ちが葛藤している。


 ぐいぐい迫り来る厚い緑を押しやりながら道なき道を無理やり進む。足元にもまるで絨毯のように草が広がり、足の置き場が無い。こもった熱と湿気でずっと青臭いサウナの中にいる気分だ。そしてこれだけがんばっているというのに全然進んでいないのだ。それも憂鬱さに拍車をかける。


 ふと視線の端になにかピンク色のものがチラリと映った。慌ててその鮮やかな色を追いかける。そこには緑の中に咲き誇る大きくて美しいピンク色の花が鎮座していた。つい手を伸ばして触れたくなってしまう。だがこれは罠だ。こうして獲物を誘い込むつもりだろう。このもの珍しい花にピヨも気づいて不思議そうに眺めている。


「うわーきれいなお花。甘い香りもするね」

「でも絶対に触るなよ、これは罠だからな」


 ピヨはわかってるよ、と口をとがらせる。近寄らないようにして離れたそのときポリーンがふらりとその花に近づいていった。まるで蜜の香りに誘われる蜂のように。


「ポリーンまてっ行っちゃダメだ!」


 慌てて襟首をつかむ。すると待ってましたと言わんばかりに花の下から大きなトカゲがばくりと口を開けた。俺は咄嗟(とっさ)にポリーンを引き、後ろに倒れこんだ。なんと花は大トカゲの体の一部だったのだ。それだけではない、生い茂る緑にカモフラージュできるよう体の鱗まで葉っぱのようになっている。獲物を取りそこなったトカゲは口を閉じるとのそのそとその場から立ち去った。


 これにはピヨも驚き唖然(あぜん)としている。


「あっごめんなさい、いい香りがしたので、つい。ありがとうございます」


 ポリーンは立ち上がるとぺこぺこと頭を下げた。本当に密林というのは、なんというか隙がない。わずかな隙間があればだれかがまたそこを見つけ入り込んでいる、といった感じだ。ポリーンは自分の本能に逆らえなかっただけだろう。この密林にとって俺たちは格好の餌食なのだ。

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