第369話 コボルトの巣穴 2
コボルトの巣穴でポリーンは一晩中、ヴェロニカを介抱した
「あーそうかいって、心配したんだぞ。まあおかげで助かったけど」
ヴェロニカは何食わぬ顔で洞窟の岩肌に寄りかかってタバコをふかしている。
「その、一体どうしたんだ。なんだかすごく、えっと、乱暴だったけど」
「大したことじゃねえよ、迷惑かけたな」
それだけ?大したことなくてあんなに凶暴になるものなのか?いまいち納得がいかない。それにもう体調は回復したのだろうか?
「調子はどうかな、もう少し休んでからにしようか」
「私はここで置いていけ」
彼女は煙とともに言葉を吐き出した。突然すぎて一瞬のどがつまった。
「そ、そんなこと。いや、まあ起きてる時間帯が違うから大変だろうけど。こんな場所にはせめてどこか安全なところまで」
「正直相当ガタがきてる。痛みを酒でごまかしてたが薬じゃねえ、結局のところその場しのぎでしかなかったからな」
絶極大地を出発してからヴェロニカはずっと痛みをこらえていたということか。なぜ何も相談してくれなかったのだろう。まあ彼女の性格を考えると痛いだの怪我をしただの騒ぐような人ではないが。一緒に旅を続けたいがこんな状態の怪我人を連れて行くのは酷だろう。そこへ話を聞きつけたのかカルベネがやってきた。いつもなら一番最後まで寝ているのに、こんなときに限って勘のいいやつだ。
「おー姉さん復活したか。よかったよかった、いやー私の大切なお酒を捧げただけなことはあるな。やはり酒はどんな病気にも効くっておじさんも言ってたしな。あ、いとこだっけか、まあいいや」
カルベネは久々に再開したヴェロニカに嬉しそうな表情を浮かべた。この二人はなんだか仲がよいのだ。
「そんじゃー姉さんも復活したことだし、出発しますか」
「いや待て、まだ行けないよ」
肩をつかむ俺を訝しげな顔で振り返る。そんな彼女にヴェロニカは深手を負っていることを伝えた。
「ああ、そうだったな。まあしばらくしたら治るでしょ。それともなに、姉さん抜きで旅をするっての、むーり無理。戦力がごそっと落ちちまうよ」
これについてはカルベネの言うとおりだが。俺はゆっくりとヴェロニカの方を振り返った。彼女は今だ表情を変えることなくタバコを吸い続けている。そのとき洞窟の入り口からポリーンがひょこっと顔を覗かせた。ヴェロニカの姿を見るや否や、一目散に駆け寄ってゆく。
「ヴェロニカさん、ああよかった。回復したんですね、一時はどうなるかと。あのごめんなさいわたしのせいで」
ポリーンがそう言いかけたときヴェロニカはタバコの火を消し木陰に座り込んだ。
「うるせえな、だれかこのハエをどっかにやってくれ。少し休む」
「ええっ!なんですって失礼な。あっ寝てごまかさないでください」
地面に寝転がるヴェロニカの肩を小柄なポリーンが揺すっている。
「ははは、兄さんちょっと休もう。二、三日すれば傷も少しは癒える。そうすりゃまた一緒に旅できんだろ」
カルベネがまともなことを言うとなんだかおかしな気分になる。だが本当にそのとおりなので俺たちは少し体を休め、これからのルートを話し合うことにした。