第367話 戦士の帰還
コボルトたちの反撃により劣勢となったダークエルフたちは上司を置いて逃げていった
俺たちは倒れたヴェロニカを抱えコボルトの後に続いた。たどり着いた先は小さな洞窟の入り口だ。小柄な彼らのための家なのだから当然だろう。とてもじゃないがフィリアナは入れないし、俺も屈まなければならない。とりあえず他のみんなにはここでキャンプをしてもらうことしに、ポリーンとともに暗い巣穴へと潜り込んだ。
中は暗闇、かと思いきやところどころに小さな明かりが見える。ろうそくかランプのようなものが狭い通路に点々と置かれているのだ。しばらく腰をおとして進むと広い場所へとでた。この洞窟はまるでありの巣のようにいくつもの道でできているのだろう。
こちらの存在に気づいた仲間のコボルトたちが一斉に駆け寄ってきた。戦士たちの帰還にみんな喜びの声をあげている。だが俺とポリーンを目にするとうなり声をあげ警戒しだした。それを先頭のコボルトがおさめる。
「マテマテ、コイツラハケガダ。マジツシハ、イナクナッタ、オデタチ、ジユウニナッタ」
自由という言葉に再び歓声があがる。その隙に俺たちをかばってくれた子供のコボルトが小さな部屋へと案内してくれた。担いでいたヴェロニカを地面へおろす。相変わらずぐったりとしていて目も開けない。ポリーンがコボルトへ水を取ってくるようにお願いした。この一室だけ遠くで聞こえてくる歓声がうそのようにしんみりとした空気だ。目の前のヴェロニカはピクリとも動かず、息をしているのかさえわからない。
「ア、アノ、ミズ、モッテキタゾ」
小さな部屋の入り口でコボルトが桶を持って立っていた。ポリーンはそれを受け取るとタオルを濡らし、傷に当て始めた。子供のコボルトは手をすり合わせおどおどしている。
「助けてくれてありがとうな。ごめんな仲間を殺しちゃって」
「エ゛、アア、アレハ、ショウガナインダ。イタカッタケド」
襲ってきたせいだとはいえ敵であるヴェロニカの看病を手伝ってくれるなんて、やさしい少年だ。彼も何かしら思うところがあるだろうに。そういえばこんな狭い巣穴をいったいどうやって襲撃したのだろう。
「なあ魔術師はどうやってここまで来たんだ?人が入るには狭いと思うけど」
「オオカミ!オオカミガ、オソッテキタ、オデタチコウゲキ、デキナカッタ。タクサンキタ。マホウツカウコボルト、コロサレタ」
なるほどな、あの魔法で召喚した狼をこの巣穴へ放ったのか。あいつらに物理攻撃は効かない、魔法が使えるコボルトはいち早く殺されてしまったのだろう。
「申し訳ないんだけどしばらくここにいてもいいかな。仲間が回復するまで」
「イイヨ、クイモノトッテクル」
そう言うと子供のコボルトは仲間のところへ戻っていった。あれだけヴェロニカにやられていたのにやはり野性の生命力はすごい。その後、何度かコボルトたちは俺たちの様子を見に来てくれた。だがどれだけ経っても彼女が目を覚ますことは無かった。