第364話 飼い犬に手を噛まれる
ポリーンによる尾の一撃で敵に隙ができた
「お前ら何を見ている!さっさとこいつをころせぇぇー!」
魔術師の男の号令にダークエルフの剣士がセシリアのもとへ向かっていった。それを合図に再び戦いが始まる。俺は急いでヴェロニカを木が生い茂る木陰の下へと避難させた。彼女の顔はまるでひどい日焼けを負ったかのように真っ赤になっている。
敵をかいくぐってきたのかポリーンが駆け寄ってきた。
「あっポリーン大丈夫だったか、ちょっとここでヴェロニカを見ててくれ」
「はい、お二人も気をつけて」
看病をまかせ俺とシャリンは再び戦場へと戻った。セシリアが剣士の相手をしている今がチャンスだ。俺はシャリンに目配せをして武器を手に駆け出した。
魔術師の男は腫れる足を引きずりながら慌てて魔法を詠唱している。だが俺たちの存在に気がつくとヒッと肩をすくめた。
「観念しろ、命まではとらない部下を引き上げてここから立ち去れ」
「くっぐうーコボルトどもこいつらを始末しろ!何をぐずぐずしている」
命令を受け数匹のコボルトが俺の前に立ちはだかった。一斉に飛び掛ってくると思いきや、そのうち二匹がくるりと向きを変えるとなんと男へ襲い掛かった。
肩によじ登り頭にかじりつく。異例な動きに魔術師は奇声を上げパニックになっている。
「ぎぇぇー何をする!裏切るつもりかーお前の家族を皆殺しにするぞー」
これには仲間のコボルトたちも振り返り不思議そうにしている。よく見ると噛み付いている二匹は血に濡れており、すでに死体だ。きっとローレンの仕業だろう。そのとおりと言うように男の背後からぬっと彼女が姿を現した。
「んふ、んふふふ、どうかしら、自分の部下に攻撃されるのは。ハゲになって死になさい!」
もともと少なかった男の髪を死体のコボルトたちがむしっている。
「早く助けんかぁぁ!このグズどもめ!」
これが詠唱型魔法の弱点だ。自分が攻撃されては手も足もでないのだ。俺は男が手にしていた魔道書を蹴飛ばした。そのとき立ち往生しているコボルトたちのもとへ、怪我をして休んでいた子供のコボルトがやってきた。大人たちは仲間が生きていたことに驚いている様子だ。
「オ、オマエ、チビスケ、イキテイタノカ」
「オレタチノテキハ、コイツラジャナイ、マジツシダ」
「ダケドオマエ、コイツラニ、ヤラレタンダロ」
立ちはだかる子供に大人たちはざわめいている。
「ソウダ、ダケドマジツシ、タオサナキャオレタチ、イッショウドレイノママダ」
その言葉に大人のコボルトたちは魔術師のほうへ振り返った。
「な、なんだお前たちまさか俺に逆らうと言うのか?」
「テキハアイツダ、オレタチノカゾクハ、オレタチデマモルゾ!ヴォーーー」
小さなコボルトが駆け出したのを機に、戦っていた大人たちは一斉に反旗を翻した。