第363話 ミツバチの一撃
ヴェロニカ救出のため全員が一斉に動き出した
「シャリン、ヴェロニカの元へ向かってくれ俺はポリーンを助ける」
向かいから来るシャリンはうなずくより早く倒れているヴェロニカの元へ向かった。そのときぐったりと地面へ伏していた彼女が起き上がったのだ。よかった、もし歩くだけの元気があるならポリーンの救出に専念できる。
するとヴェロニカは近くにいたポリーンの服を掴むと俺のほうへ放り投げた。
「小僧、受け取れ!」
俺は飛ばされてきたポリーンを受け止めた。しかしこちらが返事をする前にヴェロニカは再び地に伏してしまった。
「ポリーンここから逃げるんだ」
「だめっそんなこと、ヴェロニカさんを置いてはいけないです。私が爆発を食い止めます。その間に二人で助け出してください」
そう言うと俺の手をすり抜け戻っていってしまった。混戦の中、すばしっこい彼女を探し捕まえるだけの時間はもはやない。仕方が無いのでヴェロニカを救出するべくシャリンと合流した。
「アリスガワ、ポリーンはどうした」
「爆発を食い止めるって行っちゃったんだ。もう時間がない俺は肩を持つから足を頼む」
二人で持ち上げるが、力の抜けた彼女の体は結構重たい。魔術師の詠唱する声が喧騒の中、いやにはっきりと耳に流れ込んでくる。そのときぴたりとその声が止んだ。
「いでえええ!なんだ、このっ!」
顔を上げると魔術師の男が足をおさえ、近くのポリーンを睨みつけている。この叫び声に皆一度、手を止めた。
「このっ害虫が何をする!だれかこいつを殺せ!」
「いいんですか、そんなに動いては毒が体に回りますよ。私の尾に刺されたら三日、痛みにもがき苦しんで最後は死に至ります」
やはりハニービーというだけあって尾に毒針を持っているようだ。初めて使うのを見た。そんなに強力な毒だったとは、小さいが侮れない存在だ。魔術師の男は足を押さえ苦しそうにうなる。
「ぐううぅ、きさま~よくもこのっ」
男がポリーンを叩こうと持っている本を振り上げる。だがヤケになっている動きなど見透かすように手首に赤い線が走る。あまりの速さに一瞬どうなったのかわからなかった。いつの間にか隣に立っていたセシリアが攻撃を食らわせたのだ。
「あ、あがあぁぁ、なんだ畜生!!」
持っていた本を手放し手首から流れ出る血をおさえている。痛みにのた打ち回る男にセシリアはまるで路上のごみを見ているかのような冷たい視線を送る。
「くそっお前ら早くこのエルフを殺せ!もういいコボルトどもこいつらを皆殺しにしろ!!」
男の怒号が密林に響き渡る。それをあざ笑うかのようなためいきがセシリアの口から漏れた。
「ああうるさい、ヒロアキとシャリンは早く倒れているやつを救助して。ダークハーピーは日に当たりすぎると死んでしまうから。それとあんたたちボスを助けたいなら私にかかってきなさい、じゃないと殺しちゃうわよ」
自分の剣を大事そうに拭く余裕なセシリアに魔術師の男は青筋を立てる。