第358話 魔法を詠む者
コボルトの襲撃がダークエルフによるものだったと知った
しばらくすると子供のコボルトは落ち着きを取り戻し、フィリアナの背に跨れるようになった。家族や仲間のことを聞くとぽつりぽつりと片言だが話し始めた。
「オデタチ、フダンタタカイシナイ、エモノカルトキダケ。ダケド、アルトキトツゼンマジツシキタ。オ、オデノオヤダマコロヂタ。タタカワナケレバ、ゼンインコロストイッタ」
どうやらダークエルフの魔術師は突然かれらの住処に押し入り、リーダーを殺し従うよう命じたようだ。本当は戦いなど好まない種族なのだ。かわいそうに、卑劣なことをする連中だ。
「家はどこだ?よければ送っていくけど」
「オデハ、アナニクラシテル。ソコデホウセキトレル、ソレヲウッテクイモンモラッテタ。デモイマミンナ、マジツシニツカマッテ、ハタラカサレテル。モドレナイ」
きっと失敗して戻れば殺されると思っているのだろう。ならなおさら自分たちが出向かなければならない。なぜなら標的は俺たちなのだから。きっと今も向かってくるのを待っているのだろう。
「怪我はどうだ?痛くないか?」
「ウン゛、チョットイダイケド」
彼は歯を見せてにんまりと笑った。こうして見ると顔は小型犬のようなので愛嬌がある。もっと別の形で知り合えればよかった。
しばらく進むと密集した木が開けた場所へと出た。そこだけまるで人の手で整えられているみたいだ。そして目の前には数人の武装したダークエルフたち。待っていましたといわんばかりだ。俺たちは、武器を抜き警戒態勢に入る。中央にいるローブを着た男が両手を広げ、下品に笑った。
「ヒヒヒハハ、ようこそお待ちしておりましたぞ勇者一向殿。よくぞここまで」
それに対しフィリアナが鋭い視線を向ける。
「あなたですか?魔術師と言う者は、なんて非道なことをするのですか。今すぐに立ち去りなさい」
「非道?なにを言いますか、非道なのはあなたたちではありませんか。私の大切な部下を殺して」
とぼけたことを言う男にふつふつと怒りが湧き上がる。強制的に仕向けたのはお前だろう!なんとしてもこらしめてやりたい。
男の周りには数名の護衛とコボルトたちが囲んでいる。しゅんとしているコボルトの子供をフィリアナの背から下ろし、木の陰へと隠した。
「ここにいろ出てきちゃだめだぞ。ポリーン見張っていてくれ」
俺は敵へと向き直った。相変わらずへらへらと笑っている。
「もっとお話をしていたいですが残念、あなた方には早急に死んでもらいます」
そう言うと男は古びた本を取り出した。風が吹いているかのようにページがバラバラとめくれ、なにやらぶつぶつとつぶやき始めた。これを見てエレナーゼは眉間にしわを寄せた。
「これは面倒ね、先手を打たれた。あいつは詠唱型魔法を使うみたい。言霊って知ってる?言葉には魔力が宿るの。それを利用して一時的な契約を結ぶ。時間はかかるしその間無防備になるけどとても強力な魔法よ」
なるほどな周囲を強そうな戦士たちが守っているのはそのせいか。これはなかなか面倒な戦いになりそうだ。