第357話 新たな敵
暴走するヴェロニカをポリーンが止めた
「ポリーン大丈夫か?!」
ヴェロニカが去った後、俺たちは一目散にポリーンのもとへ駆け寄った。幸い怪我はしていないようだ。
「は、はい私は平気です」
彼女は立ち上がるとフラフラと倒れているコボルトのもとへ向かっていった。コボルトは目を閉じ、ぐったりとしている。
「よかった生きてる、だいぶ重症ですが生きてます。だれか私のかばんを持ってきてくれませんか?」
俺が荷物を持っていくとポリーンは嬉しそうに手当てをし始めた。だいぶ肝が座ってきたなと思っていたがまさかここまでとは予想していなかった。しかも自分のことより敵を気遣うなどそこまで心にゆとりがあるなんて。
「この子、フィリアナさんの背に乗せてあげてください。大丈夫、ヴェロニカさんあれだけ動けるんだからもう怪我なんて治ってますよ」
おびえて動けない俺たちとは対照的にポリーンはまるで笑い飛ばすように言った。どうやら家族のもとまで送り届けようとしているようだ。途中で迎えに来てくれるといいが。
それからは誰もが無言で歩き続けた。ヴェロニカは苛立っているのかずっとタバコをふかしている。いつも仲の良いカルベネでさえ寄っていかない。俺はとんでもない人物を仲間にしてしまった。まさかこんなに恐ろしい一面があるとは。なぜにここまで苛立っているのかはわからないが、きっと敵に舐められたと思ったのだろう。
少ししてコボルトの子供が目を覚ました。見慣れない光景に辺りを見渡している。
「あらポリーンちゃんコボルトが起きましたよ」
「あっ本当だ。大丈夫?」
すると子供はパニックになり暴れだした。フィリアナの背から滑り落ちそうなところを俺が受け止めた。
「おい落ち着けって、大丈夫殺さないから。お前の家はどこだ、わかるなら帰っていいぞ」
「オ゛オ゛ァ、コッコロサレル。コロサレル!」
「だから殺さないから早く帰れほら」
俺は暴れる子供を地面へ置き開放した。しかしなぜか逃げようとしない。なにかにおびえたように慌てている。ポリーンが頭を撫でてなだめる。
「大丈夫だよ、どうしたの家がわからないの?」
「チガ、チガウ。マジツシニコロサレル。オデ、シッパイシタカラ」
まじつしとはなんだろう?魔術師のことか?もしかしてこいつらにはリーダーがいるのだろうか。そいつの命令で俺たちを襲ったのかもしれない。ここに置いていくわけにも行かないので、仕方なく連れて行くことにした。干し肉をあげると警戒しながらもバクバクと食べ始めた。
ローレンが近くに来てコボルトをじろじろと眺めている。
「魔術師ってこ、こいつらのボスよね。て、てことは私たちを襲うように仕向けたのって、ダ、ダークエルフってことよね。先回りしてるなんて、や、やるじゃない、んふふ、いい度胸、髪の毛全部抜いてやるわ」
これは怖いことになりそうだ。だが彼女の言うとおりきっとダークエルフたちだ。どうやら俺たちのことを絶対に逃がさないつもりらしい。