第356話 小さな勇者
動けないと思ったいたヴェロニカが突如反撃へ出た
散々な目に合ったコボルトたちは文字通り尻尾を巻いて逃げ出した。ヴェロニカにやられた約半数が悲惨な状態で取り残されている。彼女は落ち着いたのか木に寄りかかってタバコを吸い始めた。みんななにも言わないがふーと息を吐いているのがわかる。
仕方が無い、襲ってきた彼らが悪いのだ。これに懲りたらもう悪さはしないだろう。だがまだ懲りていないやつが一匹、ヴェロニカの足元にいた。一回り体の小さいコボルトが仲間の敵とばかりにズボンのすそに噛み付いているのだ。おそらく子供なのだろう、ウーウーとうなり声を上げている。彼女は足元の小さなコボルトに視線を向けた。
口から吸いかけのタバコをはずす。それをコボルトへと近づけると耳の付け根に押し付けた。
「ギャアア、キュウキュウ」
たまらず口を離しのた打ち回る。その上から首を足で踏んづけてしまった。身動きのできなくなったコボルトはじたばたしながら仲間に助けを求めている。その姿を見ながらも彼女は力を緩めることはなかった。徐々に足に体重をかけていく。遠くからでもその小さな体がどんどんつぶれてゆくのがわかる。
「キューーー、クゥーー、タスケテ、タスケテ」
片言で必死に助けを求めてもだれも応じる人はいない。再びみんなに緊張が走る。今この場で彼女に声をかけられる人はいないのだ。仕方が無いので俺が止めることにした。
「あの、ヴェロニカそこらへんにしといてやりなよ。もう反省してるって」
だが完全に無視されてしまった。こちらを見向きもしない。
「もういいんじゃないかな……」
もう一声かけたところでうるさいと言わんばかりに睨みつけられてしまった。殺意を含んだ鋭い目に体が硬直する。だめだこれ以上言えば今度は俺が踏みつけられてしまう。残念だが怖いもの知らずなコボルトには死んでもらうしかない。まだ子供なのに、これも不運というものだろう。
そのとき固まる俺たちの間からポリーンが駆け出し、ヴェロニカの尾にしがみついた。
「だめっもう止めてください死んでしまいます。まだ子供です許してあげてください」
必死なポリーンを無視し遊びを続けるヴェロニカ。やろうと思えば一息でやれるものを憂さ晴らしのために加減しているのだ。優しいと思っていたのに、あのときピヨを助けるためキーガに単身で立ち向かった彼女はうそだったのだろうか。ポリーンは話を聞かないヴェロニカの尾を離そうとしない。
「止めて!だめっ、エレナーゼさんも言ってたじゃないですか。優れた戦士は意味無く命を奪ったりしないって!こんなのおかしいです!」
「うるせえ!!」
すがりつくポリーンをわずらわしく思ったのか、ヴェロニカは尾を思い切り振った。小柄なポリーンは吹き飛ばされ木にぶつかって倒れてしまった。その姿を見て冷静になったのか舌打ちをするとコボルトから足をどけ、新しいタバコをくわえて歩き出した。