第354話 密林の番犬、コボルト族
ヴェロニカが戦闘不能になっている中、新たな刺客が現れた
どうやら俺たちは何者かに取り囲まれてしまったようだ。シャリンが敵に向かって叫ぶ。
「お前たち姿を現せ、私たちに何の用だ!」
するとぞろぞろと犬の顔をした小さな獣人が出てきた。二足歩行で立ち雰囲気はゴブリンに似ている。短剣や鎌、棍棒などさまざまな武器を片手にこちらへにじり寄って来ている。その姿を見てエレナーゼが鼻で笑う。
「なるほどコボルトね、面倒だけどそんなに強いやつらじゃないわ。相手を見誤ったわね、大人しく骨でもかじってればいいものを」
彼女は牽制として火の玉を一発、やつらに向けて放った。音を立てて燃え上がる火柱を見てコボルトたちがひるむ。しかし逃げ出すかと思いきやなんとそのまま向かってきた。自分たちを鼓舞するようにワンワンと吠え立てる。
まずは先頭に立っていたニーナとシャリンに飛び掛る。相手は五匹程度、二人で十分だろう。
「アリスガワ、気をつけろ後ろだ!お前の後ろにいるぞ!」
シャリンの声に振り返るとなんと後ろからもう五匹、横からも何匹か突撃してきた。こいつらもただの馬鹿ではないということだ。お互いにコミュニケーションを取り合うほどの知能がある。一匹が俺の足に噛み付いてきた。振り払おうと首根っこを掴んだとき、その手にもう一匹噛み付いてきた。
まさかこいつをおとりに狙われるとは!俺が思っている以上に強敵かもしれ……。頭に突然激痛が走り、視界が揺らぎ地面が映る。服をつかまれ引きずられ、体の上にのしかかられた。一瞬視線の端にキラリと光る刃物が見えた。まずい、このまま俺を殺そうとしている!いやこんな犬コロに殺されてたまるか!
今まで何度も死線を潜り抜けてきたのだ。たまには俺だけの力でどうにかしなくては。目を無理やりカッと開き、上に乗っている毛むくじゃらに掴みかかった。牙を剥き怒るコボルトの鼻先をわしづかみにし、短剣を握る手に思い切り噛み付いてやった。
「ギャンギャン!ガガカァ!」
鳴いて顔を引っかかれたが、あごの力は緩めない。反射的にコボルトは俺の上から飛び降りた。口を離し、首を押さえ地面へとこすりつける。
「このっ犬野郎め!まいったか!」
コボルトは身を捩じらせものすごい力で抜け出そうとすので、そのまま茂みへ放り投げてやった。それを見ていたほかのコボルトたちは一斉に襲い掛かってきた。立ち上がって短剣を構える。こんな小物にやられてるようじゃさすがに情けなさ過ぎる。
そのとき別の一匹が木の下に避難していたヴェロニカへと向かっていった。彼女が手負いなのを見抜かれてしまったようだ。
「ヴェロニカ、そっちへ一匹行ったぞ!」
俺の声も届いていない。怪我人を嗅ぎつけたのか何匹か追加で向かってゆく。まずい今の状態ではなぶり殺しにされてしまう。一歩前に踏み出すも、それを知ってか俺の前に棍棒を手にしたコボルトが立ちふさがった。