第353話 深手
カルベネの好奇心のおかげでとんでもない目に会ったシャリンとセシリア
動く植物に食べられそうになりながらもなんとか先へ進むことができた。やはり密林は危険な場所だ、どんなものが潜んでいるのかわからない。置いてけぼりにされたカルベネは隣でぶつくさ文句を言っている。だがもとは彼女が勝手に飛び出していったせいなのだ。
「ひどいやー私、怪我人なのに。ああー全身が痛い、傷口が開いたかも」
「自業自得だろ、それにお前はセシリアに治してもらったんだろ。ならいいじゃないか」
「あのなぁー魔法って万能じゃないの。あんなの気休めよ、ツバつけたのと同じ」
俺は適当にカルベネの話を流した。問題は回復魔法の使えないヴェロニカのほうだ。相変わらず無言のままだ。夜になっても動く気配がない。もう少し絶極大地で休んでから出発すればよかった。元気にカードゲームをしていたのにあれは幻だったのだろうか。
しかしいまさら引き返すわけにもいかない。どこかに休憩できる村でも見つかればいいが。そんなことを考えつつ、永遠と続く緑の道を進む。途中、小川を見つけたのでその近くで休憩をとることにした。ヴェロニカは相変わらず木に寄りかかりぐったりとしている。さすがにその様子を見て仲間たちが心配し始めた。
「ヴェロニカさん大丈夫ですかね、わたくしの上に乗っていますが力が入っていないみたいで」
これにはいつも強気なニーナも首をかしげる。
「そうね、もしかして熱があるんじゃない?傷口からばい菌が入ったかも」
もしそうなら大変だ。俺はうなだれているヴェロニカに近寄った。
「ヴェロニカ大丈夫か?具合が良くないのか?」
それに対し彼女は手を振るだけだった。一刻も早くどこか横になれる場所を見つけなくてはならない。ついでに医者もだ。ポリーンも心配そうに顔を覗き込み、食事を手渡した。
「なにか食べないと元気になれませんよ、ヴェロニカさん?」
それも手を振って押し返した。食欲すらないのだろう。俺は休憩を早めに切り上げ、先に進むことを提案した。とりあえず日が沈むまで歩き続けよう。再びシャリンとニーナを先頭に密林を進む。次の村につくまで彼女の体力が持てばいいが。
黙々と茂みを踏み進む途中、突然エレナーゼが足を止めた。俺は暑さで重くなる頭を上げた。
「どうしたんだ、なにかいるのか?」
「ええ、どうやら私たちつけられてるみたいね。ポリーン先頭の二人を呼んできて」
ポリーンは言われたとおり俺たちの合間を縫って二人の下へ走っていった。慌てて周りを見渡す。すると木の陰や茂みの隙間から毛に覆われた影がいくつも見えた。荷物を降ろし、短剣に手をかける。フィリアナも乗せていたヴェロニカを近くの木の下に座らせた。先頭の二人も駆け寄ってくる。
一難去ってまた一難と密林はことごとく俺たちの行く手を阻む気でいるようだ。