第350話 阻む緑
ウデュラスを撃退し、カプリコーンの青年を救出することができた
翌日俺たちは水和に見送られ浜を後にした。彼の話によるとカプリコーンの青年は無事なようだ。空に海に散々な目に合っている。やはり陸が一番落ち着く。
穏やかな砂浜を抜け再び密林へと戻った。本当は行きたくないが仕方がない、これが最短のルートなのだ。川沿いではないので来た時とは別の道になる。
「アリスガワお前は大丈夫か?一人で怪物を相手にしたと聞いたが」
「あはは、まあ結構危なかったな。助けが来たからよかったけど」
「ヒロさんが落ちたときわたくし心臓が止まるかと思いました」
胸に手を当てフィリアナが笑う。一番心臓が止まりそうになっていたのは俺だ。
海風が止み、すぐにじっとりとした暑さに全身が包まれる。馬鹿だと思うが海が恋しくなってきた。ボアオークかメリュジーヌに会えればラッキーだ。そんなことをぼんやりと考えながらひたすら足を動かす。
「そういえばヴェロニカとカルベネは怪我大丈夫なのか?」
「ええー兄さん私のこと心配してくれるの?それがだめなんだ傷口がずっと痛くて」
「酒はあげないぞ」
その一言でカルベネは黙った。深手を負ったように見えたが元気そうならよかった。ただヴェロニカから返事がないのが心配だ。彼女はフィリアナの背に跨りうつむいたままだ。何も言わないヴェロニカに代わりセシリアが答える。
「しょうがないの、私の回復魔法はダークハーピーには使えないから。回復魔法は基本的に光属性の魔法、彼女にとっては逆効果よ。治せたのはゲロ女だけ」
船の中でずっと治療してくれていたのか、どうりでカルベネが元気だと思った。ダークハーピーが纏っている闇のエネルギーと相反してしまうのだろう。
「今は動かないようにするのが一番。傷口が開くと困るから」
セシリアの言うとおり今はこれしかない。引き続き旅に誘ったことが申し訳なくなってきた。フィリアナもなるべく動かさないよう慎重に歩いてくれている。
会話も終わりただ黙々と密林を歩き続ける。湿気と暑さで目の前がだんだんとぼんやりしてくる。常に聞こえてくる動物の声と行く手を阻む緑、これはテレビの中だけの出来事だと思っていた。雄大な自然を相手に身一つでサバイバルする、そんな番組だ。まさか自分が体験する羽目になるとは。
なんと言おうとこのさき数日、いや数週間はこの緑の迷路からは抜け出せないのだ。