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第346話 海の暴君、ウデュラス 

拒む男を説得し、作戦へと戻った

 仲間は俺を受け取ると今度は腕に抱えて泳ぎだした。


「あと少しだ、よし砂浜が見えてきた!このまま乗り上げるぞ!」


 男は俺を抱えたまま水面から飛び上がった。衝撃とともに砂が舞う。俺はひさびさの新鮮な空気を肺いっぱいに取り込んだ。柔らかな砂に手のひらが沈み込む。


 一瞬の安堵(あんど)もつかの間、後ろから追ってきていた怪物のことを忘れていた。振り返るとウデュラスは俺たちを追いその巨体を水から上げていた。勢いそのままに砂浜に乗り上げる。二本の足を地面につけ、体を起こす。以前であった巨大サソリにも匹敵するほどの大きさだ。首をもたげ今にも飛び掛ってきそうだ。


「作戦成功だな、では陸のことはお前にまかせる。俺たちは海から援護しよう」


 そう言うとイクチオケンタウロスの男は前脚と尾ひれを使い、アシカのように砂浜を這って行った。彼らが陸での戦いを嫌う理由がわかる。地上では前脚しかないのが災いし、動きがとても鈍いのだ。


 怪物は水を滴らせ俺を注視する。下手に動くことができない、出かたを誤れば一瞬にして食われてしまう。あとずさりする俺を追うように口をあけ迫ってきた。そこへ海のほうから銛が飛んでくる。イクチオケンタウロスたちが援護してくれているのだ。俺はこの隙に漁村へ向かい、助けを求めよう。


 そう思い向きを変えたとき背後でバーンという音が聞こえた。振り返るとなんと浅瀬に大きな氷の塊ができている。海水が突然凍ることなどありえるのか?俺の見間違い……いやでもどう見ても氷だ。まるで破裂したかのようにとげとげしい形をしている。


 するとウデュラスは首を上げると海に向かって何かを吐き出した。それは弧を描き着水する。水しぶきとともに吐かれた水が鋭い氷となった。それに浅瀬のケンタウロスたちは一斉に逃げ出す。


「お、おい、なんだこの攻撃!おーいだれか、これはなんだー!!」


 俺が大声で叫ぶも誰の耳にも届かない。まさかこんな攻撃をしてくるなんて。口から氷を吐き飛ばすなど思ってもいなかった。これでは彼らの銛も無駄になってしまう。ウデュラスは向きを変え再び海へ戻ろうとする。俺は慌てて短剣を抜き、足元へと走った。


「こっちだこっち、ここだぞ化け物!くそっこれでも食らえ」


 一人でいる俺より大勢のほうへ向かって行こうとする怪物の足に短剣を突き立てた。ウデュラスは面倒そうにこちらを振り返る。と同時に体をよじり噛み付いてきた。


 間一髪のところで後ろに飛びのく、だが柔らかい砂に足をとられ次の一歩がでない。ぐんと体が引かれる。マントの裾に噛み付かれてしまったのだ。まずいと思ったときにはすでに遅く俺の体は宙を舞った。


 青い空を通り過ぎ視界が反転する。そのまま放り投げられ逆さのウデュラスが遠ざかってゆく。衝撃とともに全身が砂に打ち付けられた。柔らかいとはいえその一振りはかなりの威力で、頭がぐらぐらと痛む。めまいを振りほどくように頭を揺らし、立ち上がった。標的を見失った怪物は海のほうへと向かってゆく。


 まずいこのままでは作戦が台無しになってしまう。俺は砂に足をとられつつ這うように前へ進んだ。

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