第345話 大海を駆けるイクチオケンタウロス族 4
途中で男に止められ、人間には手を借りないと頑なに拒否された
俺が浅瀬へ導き囮になっている間に海のほうから援護する作戦を男に伝えた。それでも彼は怪訝そうだ。
「だめだ人間の近くにはいけない。それにその作戦にも勝機が見られない」
なんだかだんだん腹が立ってきた。人の命よりそんなプライドが大切なのか。規則があるのかもしれないが、今はそんなことを言っている場合ではない。
「勝機ってじゃあなにか他に考えがあるのか?」
「今それを探っているところだ。下手に手を出しては犠牲が増える」
「その別の作戦を考えている間に俺の仲間が犠牲になるんだよ!それはいいって言うのか?!あの船には漁師も乗ってる、死んだら人間たちは黙ってないぞ」
つい大声で叫んでしまった。でも俺の仲間は時間稼ぎのためにいるんじゃない。自分たちで解決するというのなら、関係ない俺たちを巻き込んで欲しくない。
漁師も乗っているというのを聞き、男は口をつぐんだ。人間の手を借りるより、争いになったほうが余計に面倒だ。きっと仲間の死をイクチオケンタウロスや人魚のせいにするだろう。
「脅しているのか、俺たちを」
「そう思うならそれでいい、だけど俺は仲間を助けたい。それに浅瀬へ上がれば水中で暴れることがなくなる。とりあえず仲間からは引き離してくれ、それだけでいいから」
再び男は口を閉じ、考え込んでいる様子だ。
「はあ、わかった。ではお前の意見を聞こう。仕方がない、このまま野放しにしておくこともできん。俺の背に移れ、交代で浅瀬へ運んでいこう」
女へ仲間にこの作戦を報告するよう告げると俺を乗せ、ウデュラスのほうへ向かっていった。イクチオケンタウロスたちは怪物に追い掛け回され、防戦一方だ。皆、怖がって逃げ惑っている。反撃すれば自分が怒りを買うため、手出しできないでいるのだ。
男は近くの仲間から銛を手にすると暴君へと向かっていった。すれ違いざまに背中へ突き立てる。痛みの刺激ですぐさまこちらへ向かってきた。再び浅瀬へと泳ぎだす。
先ほどよりもスピードは速くなったように感じるが、水を弾き飛ばすような力強さに俺の腕はそろそろ限界だ。浅瀬へたどり着く前に俺がだめになってしまうかもしれない。ずっと水の中にいたせいか体が冷え、腕に力が入らず息もできない。のどが塩で焼けたように痛み、目もヒリヒリとしている。
「おいしっかりしろ、お前が言い出した作戦だろ」
水面に顔を出したときに男の声が聞こえた。
「そ、そんな、ゴホッ、いわれたって」
「肩だ肩に腕を回せ、足で胴を挟み込むんだ」
いたれた通り腕を前に出し足に力を入れる。だが密着すれば体のうねりで引き剥がされそうになってしまう。男は伸ばした俺の腕を掴んだ。すぐ後ろに気配は感じるが、追いつかれてはいないみたいだ。少しして男が笛を吹いた。すると仲間が数人、後ろから横へ上がってきた。
「交代だ、この人間を頼むぞ」
男は力の抜けた俺を引き剥がすと仲間のほうへと投げた。