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第344話 大海を駆けるイクチオケンタウロス族 3

なんとか説得し、浅瀬へおびきだす作戦へと移った

 イクチオケンタウロスの女は水面に飛び上がりながら跳ねるように逃げるが、後ろから迫ってきているウデュラスとの距離は縮む一方だ。


「ゴホッ、ゲホ、もう少し早く……」

「わかってる、これが全力なの!」


 上下に揺さぶられ海水はまるで刃物のように体にぶつかる。息もろくにできず口に入ってくるのは海水ばかりだ。せっかく呼吸をしても咳き込んですべて出て行ってしまう。女の腰を掴んでいる手が痺れてきた。視界も不明瞭で今どこにいるのかさえわからない。


 なんとか首をひねって後ろを振り返った。怒りに燃えた黒い目と大きな牙が無数に生えた口がすぐそこまで迫っていた。今まさに尾ひれに噛み付こうとしている。


「来て、ゴボッ、来てる……」


 俺は彼女の背中を叩いて知らせた。


「ふう、ふう、わかってるってば」


 全速力で走っている彼女の体力はきっと浅瀬まで持たないだろう。思ったより岸まで遠かった。後ろでガバリと大きな口が開く。黒いのど奥はまるですべてを飲み込む恐ろしい闇のようだ。あそこへ入ったら二度と出て来れない、そんな恐怖が背筋を寒くさせる。だがこんな状況で俺はどうすることもできない。もし飲み込まれるならそのときは相打ちになるように短剣へ手を伸ばした。


 そのとき大口が閉まり、視線を別の方向へそらした。俺たちを追うのを止めたのだ。彼女の背中を叩き、異常を知らせる。


「え、なに?どうして、あっ」


 ウデュラスの肩には(もり)が突き刺さっている。視線をそらすと近くに彼女と同じような人影がいくつも見えた。怪物は方向を変えそちらへと向かってゆく。助けてくれたのはうれしいがこのままでは作戦通りにはいかない。


「おい!何をしている危ないじゃないか!」


 前方から聞こえてきた男の声に俺たちは一斉に振り返った。彼女の仲間の一人が助けに来たのだ。ここで初めてイクチオケンタウロスの全貌を見た。ケンタウロスというだけあり馬の下半身だが尾が魚のようで、前脚や背中にもひれがついている。


 俺が息ができないと思ったのか彼女は水面に顔を出した。


「このまま浅瀬に引いていこうと思ったの、だけど私には限界みたい」

「浅瀬だと?なぜだ、そこじゃ俺たちも戦えないぞ」

「人間たちに……」


 そう彼女が言いかけると男はため息をついた。


「だめだ、だめだ人間の手なんて借りられない。あいつらと関わりあうといいことない。ほら今だってお前の背中についている人間のせいで死にかけただろ」


 そう言われて彼女は黙ってしまった。俺を手放し再び水中へ戻るよう男が促す。


「待ってくれ、この怪物のせいで人魚が一人罪を疑われたんだ。こいつのせいだって証明できれば疑いもはれる」

「なんだと、人魚は人の前には出ないはずだ。だめだお前はここで降りろ人間」


 (かたく)なな意思に俺は頭が痛くなってきた。なぜここまで頑固なのか、水中で倒すには分が悪いし犠牲だって増えることが予想できるのに。怪物を倒す前にイクチオケンタウロスたちをどうにかする方法を考えなくてはならない。

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