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第343話 大海を駆けるイクチオケンタウロス族 2

海に落ちたところイクチオケンタウロスの女に助けられた

「ちょっと待ちなさい、どこへ行くの?」


 一人で船を漕ぎ出した俺に女は慌てている。


「どこって仲間を助けに行くんだ、俺があいつを浅瀬の方まで引き寄せる」

「なに言ってるの、できるわけないでしょそんな小さな船、一撃で沈んでしまう」

「そう思うなら手伝ってくれ」


 女はぐっと言葉を詰まらせた。それから深いため息をつく。


「しょうがない、やってみよう。だが私は陸には上がれない、お前が一人で対処することになるぞ」

「わかった、でも限界まで仲間を引き寄せてそこから援護して欲しい」


 彼女はうなずくとこちらに背を向けた。


「ほら掴まれ、全速力で駆けるから振り落とされるなよ」


 俺はわかったと返したが実は彼女がどんな姿をしているのか知らないのだ。恐る恐る海へ足を踏み入れ背中に掴まった。なにか太い胴体のようなものを感じる。水面から見るとまるで魚のひれのついた馬のようだ。以前、出会ったカプリコーンに似ている。


「よし潜るぞ、息を止めろ」


 俺が返事を返す前に彼女は海中へと体を沈めた。力強いうねりとともに一気に水中を駆ける。俺は閉じている目を薄く開けた。塩水が滲みるのであまり開けていたくない。ぼんやりとだが前方に大きな影が見えた。彼女はぐんとその影に向かって水を蹴る。


 目を閉じ、開くたびに影がどんどん迫ってくる。水圧に胸が押され吹き飛ばされないよう腰に掴まっているのがやっとだ。馬の胴体には短く硬い毛が生えており、つるつると手がすべる。


 彼女は怪物の目の前まで迫ると背中に蹴りを入れ、ターンした。肩を叩かれたウデュラスは何事かとこちらを振り返る。丸い頭にサメのような歯の並んだ口、それから短い足が生えている。足を使いうまく旋回すると俺たちのほうへ向かって来た。


 大きな体を揺らし水を押しのけるように突進してきた。その姿を確認するとイクチオケンタウロスの女も身を(ひるがえ)し水面へと登ってゆく。近づいてくるまばゆい光に俺は目を細めた。次の瞬間、海面を突き破り女の体は俺を引っ付けたまま空へと飛び上がった。青々とした晴天が目の前に広がる。俺は肺に溜まった息を吐き出した。


 そんな一瞬の休息もつかの間、まるでジェットコースターのようなスピードで再び水面が迫ってくる。急いで息を吸う。水中へと戻ったが、深くまでは行かず海面に近い場所を逃げ始めた。後ろを振り返るとウデュラスが口を開けて追いかけてきていた。作戦はうまくいったが体の大きさの違いか、ぐんぐん距離を縮めてくる。俺はできる限りの大声で叫んだ。


「お、おい、来てる!追いつかれるぞ!」

「わかってる!」


 そう彼女は返したが二人が丸呑みにされるのは時間の問題だ。

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