第341話 休息の終わり
船旅の途中、遭難した漁師たちを助けた
「えーっとあなたたちは、遭難していたんですか?」
「いいから早く、海から上がれ!ここから立ち去るんだ早くしてくれ!」
俺の質問を無視して男たちは口々にそう言った。
「落ち着いてください、なにがあったのですか?」
「落ち着いてなんていられるか!早く、この船も食われちまう!」
食われる?だれに?とりあえず椅子に座らせ話を聞くことにした。
「あなた方はどこから来たんですか?」
「はあ、俺たちは漁師だこの先の村からか来た、ここいらで魚を取ってたら突然船が飲み込まれたんだ。木っ端微塵さ、でかい影が来て、ああこの船も食われちまう」
男たちは頭を抱え何かに怯えている。とりあえず以前滞在した漁村から来た人であることはわかった。俺は困惑する船長にそのまま進むよう頼んだ。きっとサメかなんかと遭遇したのだろう。息を荒げている彼らにコーヒーを手渡した。
「とりあえず落ち着いて、大丈夫です村まで送り届けますから」
漁師たちは震える手でコーヒーに口をつける。とんでもないサメがいたものだ。俺も残ったコーヒーをカップに入れ一口飲んだ。苦いが温かい飲み物は落ち着く。
そのときコーヒーの水面に波が立った。
「やつだ、怪物が来たぞ!だめだもうおしまいだ、この船も沈む」
振動は次第に大きくなってゆく。漁師たちは慌てふためき床へと伏せたり、物陰に隠れてしまった。急いで船の縁へと集まり水面に目を凝らす。すると大きな黒い影が下を通るのが見えた。
「なっなにあれ?!でっかい魚よ!」
ニーナが指を差し叫ぶ。チラリと見えた背びれはサメに似ていた。次の標的を見つけたということか。
「みんなとりあえず水面から離れて中央に集まろう、ピヨも早く」
珍しそうに水面を覗き込むピヨを離そうとした時、一際大きな揺れが船を襲った。下から突き上げるような衝撃は俺の足を床から弾き、宙へと放り上げた。
一瞬のうちにみんなが遠ざかって行く。これはまずい、そう頭では理解していても一度投げ出された体は止まらない。バクバクと拍動する心臓の鼓動を感じながら視界は空を通過し、深い青へと変わった。すぐさま水面へと浮上する。
「アリスガワ、大丈夫か?待ってろ今ロープを投げるからな」
上からシャリンの声が聞こえる。俺は一人、巨大なサメのいる海へと放り出されてしまったのだ。このままではまずい、あまりの恐怖に心臓が破裂しそうだ。そうだ、このサメは今、目の前の船に夢中だ小さな俺のことなんか眼に入っていないだろう。なら逆に漁師たちが乗ってきた小船に非難したほうが安全だ。
俺は必死に手足を動かし小船へと泳ぐ。穏やかそうに見えた海なのに波が重く、水に押しつぶされてしまいそうだ。海水が容赦なく口へ入り息ができない。宝物のマントも手足を動かすたびにまとわりついてくる。早く、早くたどり着かなくては、そう思うほど小船は俺から遠ざかってゆく。だめだ波でどんどん押し流されて行ってしまう。振り返るともといた船も遠くなっていた。帰ろうにもどうやって帰ったらいいのかわからない。
どうしよう、助けてくれるのを待つか?いや、そんな時間はない、早くしないと、サメが来てしまう、でもどうしよう。パニックに陥り考えることができない。息も苦しい、肺が押されて息ができない。足もつかない、どれだけ深いのだろう、ゾッと鳥肌が立つ。
突然、何者かに足をつかまれたと同時に視界は再び青に染まった。