第340話 穏やかな船旅
マントと短剣を取り戻し、密林へ戻るべく船へと乗り込んだ一行
送りの船に乗り込み穏やかな海へ出た。再びあの過酷な密林へと戻ることを考えると気が滅入るが仕方が無い。それよりエグゼルの言葉どおり西へ向かい、そこから船に乗れるか心配だ。分断された世界なのだから当然、貿易船などないと考えたほうが良い。これから先のことを考えてもどうしようもないのでとりあえず昼寝でもすることにしよう。
椅子に座り海風に当たる。優しい揺れに誘われるようにゆっくりと目を閉じた。遠くでみんなの話し声が聞こえる。お互い自由な時間を過ごしているようだ。そういえば俺がもといた世界は今ごろどうなっているだろう。俺がいなくなって両親は心配しているだろうか、それともまだいなくなったことに気づいていないだろうか。会社は無断欠勤してしまったな。大勢に迷惑をかけてしまった。それに今思い返してもあの白い猫の正体がなんだったのかわからない。あれは本当にただの猫だったのか。
のんびりとした船旅の二日目、だんだんとピヨが飽き始めてきた。まあ飽きているのは彼女だけなのだが。俺としてはあと一週間ぐらいはこのままでいい。それにみんな今回の戦いでだいぶ深手を負っている。フィリアナも支えられて歩くのがやっとだ。このまま足場の悪い密林へ入ってて大丈夫なのだろうか。本人は大丈夫だと言っているがそれでも悪化しては困る。
そんなフィリアナのほうへふと目を向けると足元でセシリアがなにかやっている。包帯を変えているのだろうか?
「なにやってんだ?」
「なにって治療よ、治療魔法。驚いた顔してそのぐらいできるわよ」
セシリアも治療魔法が使えたらしい。というか魔法が使えるのか、剣もできて魔法もできるなんて強すぎないか?
「魔法もできるのか、火の玉とか出せるのか?いいなあー」
「はあ、あのね魔法は万能じゃないのよ。それに私はもともと光属性、火の魔法はやらないの」
そうかエルフだからか。それにしてもうらやましい、彼女一人でなんでもできてしまう。ちょうどそのときピヨが空から降りてきた。
「ねえねえねえ、あっちに小さなお船があったよー。見て見て!なにしてんのかなー」
彼女に誘われ船の外を見渡すと前方に一隻、小船が浮かんでいるのが見えた。そこには数名の男が乗っている。荷物は無く一生懸命に手漕ぎをしている。こんな海のど真ん中でなにをしているのだろう。密猟者にしては装備がなにもないのが気になる。
男たちはこちらの存在に気がつくと立ち上がって必死に手を振り始めた。ピヨも笑顔で振り返している。
「えへへ、こんにちはーなにしてんのー?」
ピヨは楽しそうだがなんだか様子がおかしい。一人はシャツを脱ぎ、それを旗のように振っている。まさか遭難したのか?この波も無い穏やかな海のど真ん中で?俺たちの乗っている船は次第に距離を縮め横へついた。
「おーい助けてくれ!引き上げてくれ早く!」
男たちは飛び上がるように手を伸ばす。信用できないが武器を持ってはなさそうなので仕方なく助けることにした。