第336話 二分された世界
自慢の長髪を敵に切られたローレンが復讐を誓った
俺は一人ポツンと廊下に取り残された。彼女は立ち直ったのか……?まあそれは本人に任せるとしてみんなが無事だとわかった今、聞きたいことが沢山ある。俺はエントランスへと戻り、部屋の端にいたユニコーンの男に声をかけた。
「あの助けていただきありがとうございました」
「いや助けたのは私ではない、ヘカクトル様だ」
ヘカクトルと言えば以前出会った寝てばかりの少年だ。あのとき見た人影は彼だったのか?でも彼が一体どうやって俺たちを助けてくれたのだろう。
「ヘカクトルさんは今どこに?お礼を言いたいのですが」
「彼はお帰りになられた、それに私たちが合いたいからと言って簡単に会える方ではないのだよ。彼はヒュプノス三世、闇の宗教の幹部の一人だ」
そのヒュプノスがなんなのかはわからないが幹部ということは彼はすごい人なのだろう。だからあのときこの男は慌てていたのだ。
「そうなんですか、すいません知らなくて。ところでもう一つ聞きたいことがあるのですが」
俺は荷物の中から手紙を取ってきた。
「ここに書かれているもう一つの世界について、あなたは何か知っていますね?それにダークエルフのことも」
これに男は黙り込んでしまった。やはり何か知っているのだ。
「教えてください、俺たちは命をかけて戦ったんです。真実を知る権利があると思います」
部屋中の視線が男に集まる。声は出さないがみんな同意見のようだ。
「それは……ふぅ、そうだな君の言うとおりだ。なにを隠そう私はそのもう一つの世界から来たのだ。はっきり言おう、この世界は二分されている」
「二分て、この地図のどこですか?」
俺はテーブルに地図を広げて見せた。
「いやこの地図には載っていない。見ろ、北と南に大陸があり西にクーバイアがある。それから絶極大地に、ここはゴールドアイランド、ずっと東にある大陸だ。だがこれよりもっと東にもう一つ大きな大陸があるのだ」
みんなにわかに信じがたいという顔をしている。俺もそうだ、この地図に続きがあると言われてもいまいちピンとこない。
「それで、なぜそうなってしまったのですか?」
「理由は簡単だ。未開の地なのだよ。人の手が及ばない地域だ。いや、正式には人間の手、だ。そこはなんと言うか独自の文化が息づいている」
「独自の文化って?人間はいないのですか?だれも住んでない森とか?でもダークエルフはいるんですよね」
質問攻めに男はうーんとうなった。
「それは……そこには人間はいない。いるのは君たちのようないわゆる人外と呼ばれる者たちだ。だから私も初めてこの大陸へ降り立ったとき驚いたよ。ここの町ではなかったが、皆じろじろと見てきてね。エルフは排他的な種族だがそれでも異様でおかしいと感じた」
それがエルフではなく人間だったということか。別の世界では人間の邪魔がないためダークエルフたちが力を持っているのかもしれない。
「だが今回のことで十分わかっただろう、君たちはよくやった。もう一つの世界に渡ることは容易ではない。早いところ帰りなさい」
そうだ彼の言うとおりだ。別世界にいるダークエルフたちはこれ以上に強力だとあの村長の女は言っていた。この先の旅はみんなをさらなる危険にさらすことになる。それにヴェロニカとはここまでの約束だ。俺はみんなのほうを振り返った。