第335話 女の恨み
命を落とす手前でユニコーンの男に助けられた一行
シャリンの笑い声につられてみんなも笑顔になる。だがローレン、カルベネ、ヴェロニカの三人の姿が見当たらない。
「そういえばあと三人いないけど、どうしたのかな?」
俺の質問にみんなああ……と気まずそうに顔を見合わせる。何か悪いことでもあったのだろうか。そういえばカルベネとヴェロニカは先頭に立っていた。それにローレンも、敵の波に飲まれていった。嫌な予感が背筋を寒くする。考えるより先にもと来た道を引き返していた。後ろからみんなの声が聞こえる。
制止の声を振り切り俺は手当たりしだい宿の扉を開けていった。
「ローレン、カルベネ、ヴェロニカどこだ?まだ寝てるのか?!どこの部屋にいるんだ、みんな三人がどの部屋にいるのか知ってるかー?」
俺は廊下から声を張り上げた。するとシャリンがゆっくりとこちらへ近づいてきた。
「落ち着けアリスガワ、大丈夫だ。みんな生きている。カルベネとヴェロニカはあそこの部屋だ。それとローレンは……まあ今は席をはずしている後で会えるだろう」
席をはずしている?なにか意図が含まれている言葉だがとりあえず二人の様子を見に行こう。教えてもらった部屋の前に立ち深呼吸をした。生きていると言ったがもしかして重症かもしれない。俺が騒いで起こしては失礼だ。小さくノックした。
「おーい……、二人とも大丈夫か……?」
声を潜め扉を開けるとそこには包帯でぐるぐる巻きにされた二人の姿があった。痛々しいが一命は取り留めたようだ。向き合ってテーブルに座り笑っている。
「あのー二人とも大丈夫?」
「おー小僧起きたか、ちょうどいいこの金でタバコ買って来い」
「姉さんそれ私のお金でしょ」
「さっき勝ったからもうお前のじゃねーだろ」
なんと二人はカードゲームで賭けをしている。心配した俺が馬鹿だった。でもいつもの調子でいてくれたのでこそばゆい嬉しさがある。
「そうだローレン知らない?ローレンも怪我してるのかな」
二人はまた顔を見合わせ微妙な反応だ。仕方が無いので廊下へ出て彼女を探すことにした。どの部屋を空けても姿が見当たらない。すると廊下の奥、明かりの届かない暗がりからだれかがすすり泣く声が聞こえてきた。
「あっローレン、そんなとこにいたのか。怪我は大丈夫か?」
彼女は黒いフードを頭から深く被りゆっくりとこっちを振り返った。
「ぐ、グスッ、ズズズ……な、なによ」
あれ、なぜ彼女は泣いているのだろう。みんな無事に生き延びてよかったと思っているのに。もしかして敵にひどい傷跡を残されたのかもしれない。
「どうしたんだ?どこか怪我は?」
「な、ないわよ、放っておいてよ!」
ローブの隙間からチラリと見えた彼女の長い黒髪が短くなっていた。
「あ、それ……」
「あ゛あ゛ーううう、短いほうが似合うなんて絶対言わないでよねー!わかってるんだから、そんな慰めいらないわー」
そう言ってウワーと泣き出してしまった。どうしよう……こういうときモテる男は素敵な言葉をかけるんだろうな。俺はきっと何を言ってもだめだろう。ローレンは目の前で顔を伏せわんわんと泣いている。髪は女の命というが彼女にとってもそうだったのだろう。おそらく敵に捕まり脱出するときに自ら切り落としたのだ。それか敵の手によって切り落とされたか。
しばらく泣いている姿をただ黙って見つめるしかなかった。なんて声をかけようか、短いほうが似合っているはだめだしまた生えてくるも良くない。俺が手をこまねいていると突然ガバッと顔を上げた。
「うぐぅ~~ち、ちくしょうあのダークエルフどもめぇ~、ぜ、絶対ゆるさねぇからなぁー!同じ目にあわせてやるぅ~」
ローレンは泣きはらした赤い目で敵を罵ると脚を踏み鳴らし廊下を戻っていった。