第334話 救世主
ついに追い詰められ命の危機に陥った亜李須川
無抵抗な獲物をなぶるようにゆっくりと刃が近づいてくる。だが目はそらさない、俺の顔が焼きつくように、絶対に忘れさせないように心臓が止まる最後の瞬間まで睨みつけてやる。
「なんだー?お前泣いてんのかよ、アハハ命乞いしてみろよ、助けてやるぞ」
のどが詰まって言葉が出ない。でももう何と笑われてもいい。男の手に爪を立てた。
「いててっ、こいつ!なにす、うわあっ!!」
なぜか男の手がのどからはがれ視界から消えた。状況が飲み込めず同じ姿勢のまま息が吸えない。近くで爆発音と敵の悲鳴が聞こえる。
「おい、おいしっかりしろ大丈夫か少年立てるか?」
襟をつかまれ引き上げられ俺はようやく現実に引き戻された。この声はユニコーンの男だ。
「あ、あ、あの、な、なぜあなたが」
聞きたいことは沢山あるのに肺に空気が入っていないのと舌がしびれているせいでうまく言葉がでてこない。
「話は後だ、今は逃げなさい。ここから離れて、森の中へ避難するんだ」
そうだピヨとポリーンはどうした?あの二人を助けなくては!
「ちょっと待ちなさい、そっちへ行ってはいけない!」
俺は助けてくれた男の忠告を無視し先へ進んだ。ふと森が開け月明かりにはっきりと照らされた道に一人分の人影が目に飛び込んできた。あれはだれだろう、ピヨかポリーンか、そのどちらでもない気がする。だが飛び込んできた影にまるで吸い込まれるように俺は足を動かした。なんだか不思議だ、恐ろしくもあり懐かしいようなそんな感覚。
次の瞬間なにかに頭を打たれたような衝撃が走りその後猛烈な眠気に襲わ、れ……。
……体が痛い、まるで硬い板の上でずっと体を動かさず、ずっと寝ていたみたいだ。くっついた目を無理やりこすりこじ開ける。きしむ体に鞭打って上体を起こした。助かったのか?そうか、あのユニコーンの男が助けてくれたんだ。
安堵したのもつかの間、ずしりと嫌な思い出が頭を駆け抜ける。そうだ、みんなはどうした?ここは俺たちが泊まっていた宿だ。でもこの部屋で寝ているのは俺だけだ。転げるようにベッドから飛び起きる。
ドアを乱暴に開け、エントランスへと一目散に駆ける。視界がぐらりと揺らいだが壁に手をつき強引に立ち上がった。
「みんなは?大丈夫か?どこに……」
「あーーヒロだ!」
ほっとしてまた涙が出そうになった。でも胸が押しつぶされるような悔し涙ではない、目がじんわりと温かくなるような心が満たされるようなそんな涙だ。
俺は駆け寄ってくるピヨを抱き上げた。強くハグすると彼女はケラケラと笑い声を上げる。ピヨ、ポリーン、シャリン、セシリア、エレナーゼ、フィリアナそれからニーナみんなそろっていた。フィリアナは脚を怪我しているせいかラグの上に横たわっている。それでも元気そうに微笑を浮かべている。
「よかった、みんな元気そうで」
「それはこっちの言葉よ、あんたずーっと寝てて死んだかと思った」
ニーナに鼻で笑われたがそれでも彼女は嬉しそうだ。
「私を信じろとそう言っただろう」
「そりゃあもちろんそうだけど、心配で……」
俺が申し訳なさそうに頭を掻くとシャリンは大口を開けて笑った。