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第333話 歪む退路

敵の大群に次々と飲まれて行った仲間たち

 押し倒されもみくちゃにされる。殺意のこもった腕が俺の襟首をつかんだ。


「ピヨ、ポリーン早く逃げろ!」


 俺は投げ飛ばした二人に向かって叫んだ。このままでは殺されてしまう、死にたくない!ただ死ぬことが嫌なのではない、ここまで命を繋いでくれたみんなに申し訳ないからだ。できるならあの二人だけでも安全な場所に送り届けたい。戦うことができない俺に唯一課された使命のように感じる。


 上に乗っている男の足に短剣をつきたてた。人を刺すことに迷いなど無かった。いや迷っている暇なんて、そんな考えすら思い浮かばない。追い詰められた獣が躊躇(ちゅうちょ)無く相手に噛み付くのと同じだ。


「いってぇーこの野郎!ぐあっ!」


 一瞬怯んだ隙に顔を蹴飛ばし脱出する。近くで体を震わせいてる二人を再び抱きかかえ走り始めた。息が上がりのどが痛い。吸い込んだ空気が肺に入らず気管で漏れているような気がする。生きた心地がしないのに心臓はバクバクと破裂しそうなほど動いているのがわかる。走っているのに全然進むことができないし、二人を抱えている腕も感覚が無い。


 後ろから俺を(ののし)る声が聞こえてくる。涙があふれそうになってぐっと息を止めた。自分の無力さに今ごろ嫌気が差してももう遅い。なんで俺なんかがこの世界に来てしまったのだろう。あの時猫を追いかけていたのが俺じゃなかったらもっとうまく行ったのに。みんなひどい目に合わずに済んだのに、ここにいる全員をなぎ倒して助けられるほどの力があったなら。


 以前にもこうしてダークエルフたちに囲まれたことがあった。でもあの時はカルベネの仲間が助けにきてくれた。こんな暗い森の中、手を差し伸べてくれる者などいない。遅かれ早かれ俺は掴まり八つ裂きにされる。でもその後ピヨとポリーンはどうなるのだろう。この二人が痛みに泣き叫ぶ姿は自分の死より何倍もつらい。こんなときにいけないと頭ではわかっていてももう感情があふれてしまいそうだ。目の前がにじみ、木が暗闇に溶け込んでゆく。


 強い衝撃とともに俺は地面へとなぎ倒された。ついに来た、もう短剣は置いてきてしまった。抱えていた二人を前に押し出す。強い力で頭を押さえつけられた。背後で剣が(さや)から抜ける音が聞こえる。くそっ、ただでは死にたくない。少しでも二人が逃げる時間を稼ぐ、それが今俺にできることだ。無抵抗にやられてはみんなに顔向けできない。無様でもいい、せめて最後ぐらい男らしく戦って死にたい。


 俺は頭を押さえつけている手につかみかかった。足をばたつかせ全力でもがく。もう体力は残さなくていい、振りほどき腕に噛み付いた。


「あ゛ーーいでぇー、こんの、雑魚は大人しく死んでろよ!」


 近くで笑い声が聞こえる。


「ハハハ、なーにやってんだよさっさと殺せ、めんどうだ。俺は残りの二匹捕まえてくるから」


 太い指がのどに絡みつき地面へと押し付けられた。目の前にはするどい刃が迫っている。最後の一秒まで諦めるわけにはいかない、必死に男の手を押し返す。そしてそんな俺を見て相手は目を細め笑った。

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