第331話 絶望の大地 1
ついにデリアとラボナを撃破した一行
俺たちは縛り上げた双子を置き去りにし、夜道を歩いた。みんなだいぶダメージを受けている。
「カルベネ大丈夫か?さっき石に当たってたけど」
「え?兄さん心配してくれるの?やさしぃー兄さんが心配してくれるのなんて初めて。お酒飲んでいい?」
「だめ」
カルベネはすーっと俺から離れていった。まるでおやつがもらえないとわかった犬みたいだ。このまま進めば夜が明けるころには町へとたどり着けるだろう。本当は夜を明かしてからが良いがこの場に留まっているほうが危険だ。ヴェロニカとカルベネを先頭に俺はフィリアナを支えながら歩いた。今度はヴェロニカに酒をねだっている。まったくこりないやつだ、だが彼女のおかげでこうした暗い雰囲気もなんだか明るく感じる。
フィリアナからも安心したような笑みがこぼれる。だがつかの間の平和はすぐに終わりを告げた。先頭の二人が立ち止まったのだ。
「ったくしょうがねえなぁ、やはりただで帰すわけ無いか」
「やれやれ、今夜は徹夜だななあ姉さん」
ヴェロニカの吐いたタバコの煙が月明かりに混じり白ばんで見える。
「徹夜ってなぁ、私は夜起きてるんだぞ。まあいい、おい小僧、他のやつらを連れて逃げろ」
闇の中からただならぬ気配を感じる。柔らかかった空気が一変、生ぬるくなり肌を舐める。やがて木の影から何人ものダークエルフたちが姿を現した。俺たちを待ち伏せしていたのだ。仲間たちも武器を抜き警戒する。
口笛を合図に一人がこちらに向かって来た。すかさずヴェロニカが横から飛び掛る。
「何をしてる、早く行け!」
「でもそれじゃ」
俺が言いかけたところで周囲の伏兵が一斉に襲い掛かってきた。話し合っている暇は無い、俺はフィリアナを支え先を急いだ。横から後ろからもみくちゃにされる。一人に肩をつかまれ引き倒されそうになった。だが敵はうめき声を上げ倒れた。ニーナが助けてくれたのだ。
「こんなんじゃキリがないわ、行きなさい!」
止める前に彼女は敵軍へと身を投じた。すぐに暗闇に飲まれ姿が見えなくなる。後ろで起きている爆発はエレナーゼのものか、もはやわからない。近くにいるのはシャリンとフィリアナ、ピヨとポリーンだけだ。ローレンはどうしたのだろう、彼女も接近戦には向いていない。
「い、いや離しなさいよ!なにするの痛い、痛いじゃない!」
どこからかローレンの悲鳴が聞こえてきた。助けに行かなくては、でもフィリアナから離れることはできない。バラバラになっては余計に不利になる。でも、でも、助けを求めている仲間を置いていくなんて。ローレンの声が遠ざかってゆく。どうしよう、なにか、なにかないか、なんでもいい誰でもいいから助けてくれ。
こんな敵のど真ん中で叫んだところで変わらない。甘く見ていた。こいつらは今まで戦ってきたダークエルフたちとは違う、俺たちが見てきたのは田舎の端くれ。氷山の一角にしかすぎなかったのだ。この大きすぎる闇は俺たちにはどうすることもできない、世界を救うなどこんな生半可な気持ちで挑むべきではなかったのだ。光のエルフですら手をこまねいていた理由が今わかった。だがもう遅い、この旅は命の終わりへの旅だったのだ。