第326話 地と風の魔術師、デリアとラボナ 5
窮地に追い込まれた亜李須川が秘策を思い付く
見上げるとフィリアナが汗を流し苦しそうな顔をしている。もし手を放せば地面に巻き込まれ脚が折れてしまうかも知れない。
「ヒロさんここは私が支えていますから、カルベネさんと行ってください」
俺の心を読んだのかポリーンがそう言った。本当はこんな賭けには出たくないが仕方がない、ここは彼女に任せていこう。
「悪いなポリーン、フィリアナをよろしく頼む」
フィリアナの脚から手を放し、壁の隙間から脱出する。外では今だ戦いが続いていた。
「あっアリスガワ大丈夫か?フィリアナはどうした?」
駆け寄ってくるシャリンに中の状況を伝えた。
「そうか、だが残念ながら私たちもこれだけ人数がいながら手を出せずにいるんだ。完全に相手のペースに飲まれている」
前方で息を荒くしたヴェロニカが敵に飛び掛ってゆく。一瞬煙が見えたかと思うと突風が吹き、怯んでしまう。だがそれでも力任せに攻撃を続ける、きっと一撃でも食らわせられれば勝ちだと思っているのだろう。実際に双子の魔法は強いがただの女の子に過ぎない。
「どこに向かって行ってるの?こっちよ!」
いつの間にもう一人が近くに現れていた。爆発音と共に地面がはじけ飛び、岩の破片がヴェロニカを襲う。
「くそっ、この野郎!」
なんとか破片に火の玉をぶつけ強引に避けた。その隙にニーナが風の魔法を放ったほうへ後ろから忍び寄ろうとする。しかしそれも感づかれ地面ごとはじき返されてしまう。隣でシャリンが悔しそうにうなった。
「ううっあいつらもしかして二つの属性を使いこなせるんじゃないのか?それに転移魔法もできるみたいだ。さっきから位置を変えては攻撃してくる。どんな技が来るかまったく読めないんだ」
「それなんだけど彼女たちの持っている杖に注目してみてくれないか?風の魔法をやったほうが杖を右手に持っていた気がするんだ」
それを聞いてシャリンは目をわずかに見開いた。
「ああなるほど、そう言われればそうだな。やつらの外見ばかりに気を取られていた、夢中になっていて気がつかなかった」
恐らく右手に持っているのが風、左手に持っているのが地の属性を操るのだろう。俺の言葉にエレナーゼも振り返る。
「簡単な話だったのね、そうとわかればこちらから反撃よ。私は土属性のほうを足止めするわ、ニーナとセシリアは風のほうをお願い」
二人は一言返事をすると敵へ向かっていった。エレナーゼは足止めをするべく火の玉で遠くから攻撃する。
「ようやく気づいたの?遅すぎ、なにが勇者よボンクラの集まりじゃない!」
向かっていくニーナを風で押し返そうとする。しかし彼女は蛇行しそれをうまくかわしてゆく。もう一方でセシリアが駆け寄ってゆく。
「なに?勝ったつもり?馬鹿にしないでよ!」
右手に杖を持っているデリアが腕を振り上げる。一瞬にしてニーナの巨体は竜巻によって押し上げられ目の前から姿を消した。
「あんたも消えなさい!」
セシリアもかわす間もなく突風に押され吹き飛ばされてしまった。