第323話 地と風の魔術師、デリアとラボナ 2
逃亡中に双子の魔道師に阻まれた一行
俺たちは二人のダークエルフに挟まれ身動きが取れないでいる。この魔道師たちがどれほどの実力なのかもわからない。先ほどの攻撃なんてほんの準備運動にすらならない程度かもしれない。
「チッしゃらくせぇ、同時に叩くぞ。おい、人面猫お前反対側やれ」
ヴェロニカに言われ眉間に皺を寄せながらもエレナーゼは配置についた。手に紫の炎を灯し、双子の一人へと向かっていく。それに続いてエレナーゼも敵に炎を放った。
「ふん、無駄よっ!」
先ほどと同じように突撃するヴェロニカに突風が叩きつけられる。しかし、彼女はそれをすばやく避けると炎を放った。吹きすさぶ風はそれをも打ち消す。だがそれも一度までだ、ヴェロニカの放つ炎のほうが威力がある。希望が見えたのもつかの間、なんと前方からの風に吹き飛ばされてしまった。
同時にエレナーゼの炎ももう一方の魔道師に着弾したが土の壁に阻まれてしまった。地面へ叩きつけられたヴェロニカはこちらへ転がり再び押し戻される。
「ハア、くそっ自分の羽が邪魔なんてな」
どうやら翼に風を受けて押し戻されてしまったらしい。これでは彼女は風属性に対して不利ということになる。ついでにピヨもだ。一方エレナーゼの炎は地属性には不利なようだ。
「だめね、地の魔法は発動までに時間がかかるけど火には強いの。私じゃ相性が悪いわ」
遠距離攻撃が使える二人でさえ有効的なダメージを与えづらい。まずどちらがどの属性なのか見極めなくてはくてはならない。そんなことを考えている間にも二人は一瞬で立ち居地を変えた。
「ふふふ、そっちがぼーっとしてるなら私たちから行くからね」
すると俺たちの周りに風が吹き始めた。それは竜巻のようにどんどん強くなってゆく。あっという間に風の檻に閉じ込められてしまった。一歩前へ出ていたエレナーゼが後ろへと下がってくる。
「しまった!早く脱出しないと、これでは一網打尽にされてしまうわ」
強くなる風の渦に体当たりして行くなんて無謀すぎる。だが今ここで地属性の魔法を使われてしまっては全滅だ。蛇に睨まれた蛙のように背筋がぞっと寒くなる。なにか考えなくては、今すぐに対処しなければ命が危ない。巻き上がる土煙で双子の姿が確認できないことが余計に焦らせる。こうしている間にももう一人は力を溜めているに違いない。
「しょうがねぇ、いくぞ全員私について来い!」
カルベネはどこからとりだしたのか持っていた酒を煽ると立ち塞がる風の壁へと走り出した。