第320話 魔の手
ダークエルフたちにすでに待ち伏せされていた一行
フィリアナとシャリンが剣を手に前へ出る。
「ヒロさんはここから脱出してみなさんを呼んでください」
本当は二人をここに置いていきたくないが仕方が無い。今はこれしか方法がないのだ。
「さ、遠慮はいらないわさっさと殺してしまって」
女の一言を合図にダークエルフたちが襲い掛かってきた。とても二人で受けきれる数ではない。それどころか俺の逃げる隙すらない。そのとき敵の背後で悲鳴と共に火の手が上がった。
後ろからの攻撃にダークエルフたちは戸惑っている。この瞬間、フィリアナとシャリンは敵に飛び掛って行った。シャリンの短剣が腕を裂き、フィリアナが乱暴に男たちを投げ飛ばし、続けざまに横から襲い来るやつらの肩に刃を滑らせる。俺の背後からフッと鼻で笑う声が聞こえた。それを無視し、二人の間にできた隙間に飛び込んでゆく。
きっと仲間が気づいて助けに来てくれたのだろう。そこまで抜けれれば!と希望を見たのもつかの間、俺は横へ押し倒されてしまった。剣を引き抜きがむしゃらに振り回す。顔も見えない相手は俺の手を押さえつけようとしてくる。
「くそっ離せ!どけよ!」
男を押しのけ地面を這いずるも逃がすまいとマントを掴まれ引き戻される。チラリと見えた片手には鋭いナイフが握られていた。一気に冷や汗が首筋を流れ落ちる。まるで狼に牙を突き立てられそうになっている獲物の気分だ。
ハッハッと短く息が漏れる、うまく呼吸ができない。死にたくない、こんな場所では、でも体に力が入らない、焦って手が滑り唾液がのどに詰まる。上にかぶさっている男はものすごい力だ、かなうわけがない。相手は戦いのプロだ、それに比べ俺はろくに戦いも知らない、狼と小型犬ほどの差がある。
意識が朦朧としてきた、息がたりない、恐怖で何も考えられない。次の瞬間、ふと視界が開け曇り空が目に飛び込んできた。
「なにぼさっとしてんのよ、早く立ちなさい!」
ニーナの声だ、俺は嬉しくて涙がでそうになった。今度は安心から力が抜けうまく立てない。そんな俺を見かねたのか襟首を掴まれ引き上げられた。
「まったく、しゃきっとしなさい逃げるよ!」
辺りを見渡すと仲間が大人数のダークエルフたちと戦っている。俺は落ちた荷物を拾い、砂埃の中をひたすらに走った。後ろから女の視線を感じたが振り返らず足を動かした。
「ヒロアキを捕まえたわ、退却よ!」
ニーナの声を合図に俺たちはダークエルフの村から逃げ出した。