第319話 終わりへの旅 4
ダークエルフの村長に水晶台と手紙について聞いた
微笑む村長の女に俺も笑い返した。
「いやー大変でした、なにぶん俺が全然だめなものですからみんなに迷惑ばかりかけて。それでは失礼します、ありがとうございました」
俺は荷物をまとめて椅子から立ち上がった。もう手紙と水晶台はいらないだろう。
「あらどこへいくの?そんなに急いだって死期は変わらないのよ」
今なんと言った?しきとは?何かまだ言いたいことがあるのだろうか?振り返ると女は椅子から立ち上がっていた。状況が飲み込めず隣のシャリンに目をやると彼女は腰の短剣に手をかけている。
「アリスガワだめだ、気をつけろこいつは黒だ」
「え?なんて言ったんだ?黒って?」
先ほどの穏やかな顔から一変、女の顔が怪しげな妖艶なものへと変わってゆく。
「んふふふ、確かにあなたグズみたいね。一人で来なくて良かったわねーお守りが二人もいてくれて」
「まさか知っていたのですか?この手紙と水晶台について」
女は机の上にある手紙を手に取った。
「ええもちろん知っているわ。もう一つの世界から来たとかいう使者が私のところにも置いていったわ。まさか信じられないけど利用する価値はあった。こいつら私たちよりはるかに強い力を持っていたもの」
はるかに強い力……もしかして俺たちは想像以上のものに足を踏み入れてしまったのかもしれない。
「だから了承するふりしてこちらで勝手にやらせてもらうことにしたわ。ゲルボルク領を救い、地獄の犬を撃退した勇者がどんなものかと思っていたけどこんなのにやられていたなんて、情けないわ」
こんな遠くの場所にすでに俺たちの情報が伝わっていたなんて。こいつらはとっくに知っていて待っていたのだ、俺たちがのこのこ現れるのを。まさかこんな離れたところにいるダークエルフたちが繋がっているとは。
「別にこんな雑魚泳がせておいても私はいいと思うけど、どうやらあなたのお友達の実力は侮れないみたいだし」
「クッ、アリスガワ逃げるぞ!」
シャリンに促され俺は机の上の手紙と水晶台を咄嗟につかみ建物の外へと走った。後ろからは女の高笑いが聞こえてくる。
「やられましたね、先回りされていたようです」
フィリアナを先頭に外へ出るとそこには武装した護衛が集まっていた。穏やかな空気は幻のように消え、ダークエルフたちの薄ら寒い視線が突き刺さる。鳥のかわいらしいさえずりも聞こえない。一匹残らず殺されてしまったかのようだ。
「ね、だから言ったでしょう、もう逃げるのは無駄よ。心配ないわ、みんな一緒に弔ってあげる、野犬のえさとしてね。ハハハハハ」
後ろから悠長に追って来た女の嫌味な笑い声が耳の奥に突き刺さった。