第30話 町の異変 1
側近の一人のはからいで潔白を証明するチャンスを得た二人とフィリアナは調査のためにもといたアジトへと来た
俺たちはシャリンの案内で下水道の脇道からアジトへ入った。狭い道の先は広い地下堂になっており、いくつもの太い柱が高い天井を支えている。シャリンが壁にかけてあった松明を手に取り火をつけた。辺りがオレンジ色の光に照らされる。
「ここは?町の地下にこんなものがあったなんて」
フィリアナは蹄の音を響かせながら周囲を見渡している。
「ここは昔、囚人を閉じ込めておくための牢獄があった。それと貴族たちがいざというときに逃げるための秘密の通路の役目もある」
町のいたるところに通じているのはこのためか、まあ確かに隠し事をするのにはうってつけだ。
だがここで一つ違和感を感じる、襲ってきたオークたちはどこに行ってしまったのだろう。町の外にもおらず中にもいない。シャリンの話によるとかなり人数がいたように思えたが。
「私たちのアジトはこっちだ」
歩き出したそのとき俺は足の先でなにかを蹴飛ばしてしまった。乾いた音が闇に反響する。
一瞬驚いたがただの瓶のようだ。持ち上げて見てみるとまだ中身が少し入っている。おそらく盗賊たちが置いていったものだろう。
「ただの空き瓶だった、驚かせて悪い」
「いや、大丈夫だ。だが気をつけてくれよ」
「そういえばお前たちが逃げ出したのはいつだ?」
「そうだな、二、三ヶ月ほど前だったか」
シャリンの答えに俺は小さくうなずいた。もうオークたちはここにはいないのかもしれない。
壁にある扉の一つに案内された。どうやらこの先にある今は使われなくなった牢屋を自分たちの部屋にしていたらしい。
シャリンが扉の取っ手に手をかける。だがその扉が開くことはなかった。