第310話 船出 2
羊島の住民に見送られ船へと乗り込んだ
乗せてもらった船の上でピヨは飛んだり走り回ったりとても楽しそうだ。そういえば以前船に乗ったとき初めてだったにもかかわらずじっとさせてしまったことを思い出した。海を覗いては魚を探している。
そういえばここまでわざわざ来た本来の意味を忘れかけるところだった。俺はずっと大切に持っていた水晶の土台を取り出す。ずっしり重くここまで旅を共にするのは結構大変だった。沈みそうな泥の中でも荷物を手放せなかったのはこれがあったからだ。裏には炎を模した竜のような紋章が刻まれている。
ニーナは荷物に腰掛けながらはしゃいでいるピヨを見つめている。
「あーあ、あれが大魔術師ピヨ様ね、なんか信じられないけどまさかエレナーゼがこんなこと言うなんて思わなかった。あの二番目にプライドが高そうな人の口から参ったなんて言葉が聞けるなんてね、驚きだわ」
俺からしたらニーナが二番目なのではと思ったが言ったらきっと怒るので黙っておいた。そして一番はセシリアのことだろう。その様子を見てフィリアナは嬉しそうに微笑んでいる。
「素敵なことですよ、お互いを認め合うというのは。でも不思議ですね、わたくしたち種族も故郷も年齢も違うのにまるで当たり前みたいに一緒にいる。それに本来こんな危険な旅、だれも行きませんよね」
そう言われれば彼女の言うとおりだ。俺たちは全く違う。逆に共通点を探すほうが難しい。それなのにずっと昔から友達だったみたいだ。思い返してみれば不自然なことばかり、今までの人生では考えられないことの連続だ。少し前の俺ならダークエルフを止めるため世界中を旅して回るなんてゲームの話だろ、と言っただろう。
「そういやあんたって別の世界から来たんでしょ。今でも信じられないけど、もしそうなら何かしら意味があって来たんじゃないかなって思うの」
「そうかな、そうだといいんだけど。でも今のところあんまり意味がないような気が……」
もし意味があるならば特別な力を持っているとか選ばれし勇者とか何かしらあるだろう。だが今のところ何一つない。どちらかといえばお荷物だ。
「そんなことありませんよ、だって縁のなかったわたくしたちがこうして旅をしているのですから。ヒロさんがこの世界に来たのはきっとこのためです」
「そっか、俺も少しは役に立てているみたいでよかったよ」
もし違くともそう言ってくれるだけでありがたい。俺は広い海を見つめながらわずかな休息の時を楽しむことにした。