第308話 魔道師ピオーネ
銀の小物で狼男を撃退した二人
遠くからポリーンの声が聞こえる。
「ピヨちゃん、ヒロアキさん大丈夫ですか?!」
へたり込む俺たちに仲間が集まってきた。俺は遠ざかってゆく武装した村人たちの背中をぼーっと見つめていたが突然頭に受けた衝撃で強引に意識を引き戻された。
「この馬鹿!作戦てこれ?!危険すぎるじゃない!」
頭を押さえて顔を上げると怒り顔のニーナと目が合った。まあ彼女が怒るのも無理は無い、おれ自身今回の作戦はかなり無謀だったと思う。隣では体の力が抜けてしまったピヨをポリーンが起こそうととしている。
「ふにぇ、おなかすいたぁ~」
「ピヨちゃんてばもう、ご飯作ってあげるから」
そこへ妙に神妙な面持ちのエレナーゼがやってきた。彼女も無謀だった俺に怒っているのか?するとふう、とため息をついて頭を下げた。
「正直、あなたたちには参ったわ。まさかこんな小物で相手を追い返すなんてね」
エレナーゼは血にまみれ曲がってしまった小さなスプーンを手に取った。
「あはは……呆れられちゃったな」
「いいえ言葉の意味はそのままよ。あなたたち、特にピオーネ、あなににはね」
名前を呼ばれたピヨは眠そうに目をこすっている。
「え?ピヨ?ピヨがなにしたの?」
「私は今まで強い魔術師とは強力な魔力とそれを操れるだけの力量を持っている人だと思っていた。でもそれは間違いだったみたいね。今のあなたを見て、いえ今までのあなたを思い返すとそう。あなたは限られた魔力の中でいつも最大限の実力を発揮していた」
褒められているが当の本人はぼーっとしている。
「魔力の量は大切、でも本当に強い魔術師は常に考え自分の力を的確に、そして最小限に使う。私は自分の力に慢心して工夫するということを忘れていたのね。以前言ったことは撤回する、申し訳なかったわ魔道師ピオーネ」
そう言ってエレナーゼは深々と頭を下げた。その姿にみんな声を出さずに驚いている。だがピヨだけはピンと来ていないようで座ったまま辺りを見渡している。
「ピヨおなかすいたんだけどなぁ」
「ふふふ、そうですね、さあ頑張ってくれた勇者さんにはご馳走をあげなくっちゃね」
フィリアナは優しそうに笑うとぐったりしているピヨを抱き上げた。