第306話 狩られる者 1
狼男の弱点である銀の小物を手にして討伐へと向かった
狼男たちが逃げ込んだ森は鬱蒼と静まり返っている。まるで獲物が来るのをじっと待ちわびているかのようだ。後ろでローレンが肩を震わせている。
「あ、あのさ、朝になってからじゃ、だ、だめなの?」
「だめよあたしたちが止めなきゃ悪さするでしょ」
ニーナに言われローレンは仕方なさそうに歩き出した。ここでもヴェロニカとシャリンを先頭に警戒しながら森の中を進む。ランタンの明かりも心なしか縮こまって見える。
「で、あんたどうやって倒すの?なんか秘策があるんでしょ」
「秘策じゃないけど、これを弾にしてピヨに打ってもらおうと思って」
俺の手の中にある銀の小物を見てピヨは首を傾げる。
「え?ピヨがなにかやるの?」
「話してるとこ悪いが狼どものおでましだぞ」
ヴェロニカの声に前を向くと暗闇の奥に赤く光る目が浮かび上がってきた。それも三人分、前方からゆっくりと近づいてくる。こちらの姿を確認したのか真ん中のやつを先頭に走って向かって来た。案の定ものすごいスピードで駆け寄ってくる。あまりの迫力に体が硬直し、生きることをあきらめてしまいそうになる。
全員が体を固くしている中、エレナーゼが風のごとく駆け出し前方に向かって火を放った。着弾した箇所から火柱が上がり狼たちの連携を崩していく。
「ほら何をしてるの?!なにかやるなら早くしなさい!」
彼女に続きヴェロニカも手から火を放って攻撃する。あまり説明をしている暇はなさそうだ。俺はピヨの翼の間に銀のティースプーンを挟みこんだ。
「これをピヨの爆発で飛ばすんだ。どうだできそうか?」
「ええ?!う、うんやってみる。でもできるかわからないよやったことないから」
銃や杭が無い今、これで代用するしかない。正直これは賭けだ、俺もうまくいくかわからない。
「よーく狙うんだぞ、爆発を一箇所に集中させてこのスプーンを押し出すイメージだ」
俺はピヨの翼に後ろからぎゅっと手を添えた。エレナーゼの炎を掻い潜って一人こちらに向かって来た。ずらりと並んだ太い牙をむき出し邪魔な彼女を始末しようとしている。近づいてくるたびその力強さで地面が揺れているような錯覚におちいる。
腕の中、ピヨが呼吸を止め体を硬直させているのが伝わってくる。無意識のうちに逃げようと俺のほうへ体が寄って来ている。
「いいか、十分引き付けろ、大丈夫俺が後ろにいる。これはピヨお前にしかできないことなんだ。このチームの中で他に誰にもできないことなんだ、自分を信じろ」
俺が手に力をこめるとピヨも合わせて翼をうまく微調整している。彼女には理屈では語れない、本能的な勘の鋭さがある。今までの旅で何度もその勘に助けられてきた。
狼男は数メートル先からエレナーゼに向かって飛び掛ってきた。それを間一髪で彼女は避ける。比べると大きさはまるで生まれたての赤ん坊と大人ぐらいに見える。着地した体勢から背を見せるエレナーゼに向かって太い腕をたたきつけた。
「いまだ!!」
俺の掛け声とともに乾いた爆発音が森に響いた。