第305話 狼狩り 3
船乗りの男を二人捕まえたが、狼男が森へ野放しになってしまった
くやしいがこのままではこの男の言うとおり成すすべは無い。狼男を探しに行った村人はきっと返り討ちに合ってしまうだろう。なにか弱点でもあればよいのだが。
俺は少ない記憶を必死に探った。狼男といえば満月だ、それから吸血鬼と戦っていた。そんな映画があった気がする。あとは……銀だ、たしか吸血鬼と狼男は銀に弱いという設定があったはず。だがあくまで俺のいた世界でのいわばフィクションだ。でも今はこれを試してみるしかない。
銀貨を一枚取り出し男たちの前に放ってみた。それを見た男の目つきが変わる。
「ほう、なるほどな銀か。よく知ってるじゃねえか、でもなんだ今から村中のティースプーンを集めて銀の杭でも作るつもりか?」
これにはセシリアも険しい表情だ。
「確かに銀は効くわ、でもだれがどうやってこれを狼に打ち込むかが問題ね。とりあえずありったけの銀を集めてもらいましょ」
「ハハハ、せいぜい頑張りな、でも早くしねえと死人がどんどんでるぞー」
下品な笑い声を無視し、そばで立っていた監視の男に銀を集めるように頼んだ。
「持ってきてくれる間に作戦を考えよう。まずあいつらは三人で一緒にいるのかが問題だな。狼は基本的に群れで行動するけどどうなんだろう」
俺の言葉にセシリアはうなずく。
「きっとそう、人数が少なければ固まっているはず。問題はその力と速さ、優秀な狩人が束になっても敵わない。彼らに対峙できるのは悪魔か吸血鬼だけと言われてるぐらい」
やはりこちらでも吸血鬼とはセットのようだ。ということは吸血鬼も存在するということか?いや、今は考えるのをやめておこう。彼女は話を続けた。
「はっきり言ってこのチームで少しでも敵う人はいないと思う、私を含めてね。足止めぐらいはできるけど怪我は免れない。こういう言い方はしたくないけどここは身を引くべきね。強引にでも船を借りて出て行くべきよ」
そういわれてしまえばそうだ。下手に手を出して大怪我を負っては洒落にならない。でもここで何もしなければ犠牲者が大勢出てしまうのは目に見えている。そこへ監視の男が帰ってきた。
「はあ、はあ、ほら持って来たぞ。でもここの村のやつらはそんなに金持ちじゃないからあんまりなくて。これしか見つからなかった」
彼が持ってきたのは小さなフォークとペーパーナイフ、それからティースプーンだ。これで戦わなくてはならないのか、はっきり言って絶望的だ。この世界にはアニメに出てくるようなかっこいい銃もない。ここで俺はふとあることを思いついた。馬鹿げているがもしうまく行けば撃退ぐらいはできるかもしれない。
「きっと俺たちを見つけたら三人一斉に飛び掛ってくると思う。だからエレナーゼとヴェロニカなんとかあいつらを散らしてくれないか?一匹ずつ対処したいんだ。他のみんなにはピヨと俺を守って欲しい」
俺の提案にエレナーゼは眉を片方上げた。
「あなたが何を考えてるのかわからないけどまあいいわ、やってみるだけやってみましょう」
俺たちは銀の小物を手に、再び森へと向かった。