第300話 生贄の羊 3
仲間を連れ証拠集めに回った
「あっエレナーゼ、ポリーン、よかった無事だったのか?!」
「しっ静かに」
再び会えたのが嬉しくて思わず大声を出してしまった。
「悪い、でも狼に会わなくてよかった。メアリーが殺されたんだ、だからこうして三人で無実を証明するために調査してるんだけど」
「そう、私たちも独自でやらせてもらったわ。私たちは羊たちが通った跡で狼の毛を見つけた。だけどそれはこの森にいるものとは違うみたい。実際に剥製と比べてみたの、経緯は長くなるから省略するけど」
これでこの狼たちはこの島の外から持ち込まれた別の生き物であることがはっきりした。そして最後の目撃者、それは俺自身だ。だが頭に浮かぶのは暗い中でこちらを見つめる赤い二つの目だけ。大きくて黒くて、そしてそれは狼というよりゴリラのようだった。いかつい肩に短い後ろ脚……そういえば二足歩行だったような、いやこれは俺が恐怖から記憶を誇張してるだけだろう。
そういえばまだメアリーについて聞いていなかった。第一発見者や彼女の友人に話を聞くべきだろう。俺たちは気が進まないながら村へと足を向けた。
村は閑散としていて物寂しい雰囲気だ。あまり長居したくない、どこか胃がムカムカしてくる感じだ。港へ向かうと大きな貿易船がいくつも留まっていた。一体だれから話しかけようか。
俺はとりあえず近くで荷物を運んでいた青年に声をかけた。
「あの、ちょっといいかな。話を聞きたくて、メアリーについてなんだけど」
青年は振り返って眉をひそめた。
「なんだよ、手短に頼むよ」
「彼女について知っていることを聞きたくて、交友関係とか、その、昨晩の行動とか」
「知らないよ。あ……そうだ、そういえばあいつメアリーに恋してたな」
そう言って青年は近くで一緒に働いている別の青年を見た。きっと彼なら何か知っているだろう。
「作業中申し訳ないんだけど、メアリーについて聞かせてもらえるかな?」
「えっ、めっメアリー?!いや僕はなにも知らないよ」
気弱な青年は持っていた荷物を落として慌てている。
「彼女がなぜ狼に襲われたのか知りたいんだ」
「ええっ、と、その、そうだな……たまたまだよ、たまたまなんだけど彼女が船乗りの男と会っているの見たんだ。彼女すごく楽しそうだった、この村で暮らしているときには見せないような笑顔で。僕が彼女について知っているのはそれぐらいだよ」
「その船乗りの男は?」
「今はいないよ、だって貿易が止まってるから。あーあ仕事、どうしよう」
どうやらメアリーは別の男と恋に落ちていたみたいだ。だがそれと狼とは関係ない。それに今その男はいないのだ。結局何も有益な証言が得られないまま夜を迎えてしまった。