第298話 生贄の羊 1
狼を見たことを話したら犯人だと疑われてしまった
俺たちは小さな島の狭い牢屋に押し込まれてしまった。三つしかない拘留所に体の大きなフィリアナとニーナ、それからローレンは窮屈そうにしている。しかし全員ではない、エレナーゼとポリーンは捕まる直前に宿屋から脱出したのだろう。目の前では男がめんどうそうに監視に当たっている。
「ちょっとあんた、なんであたしたちが捕まらなきゃいけないのよ!証拠はあるの?!」
鉄格子越しに怒るニーナに男は面倒そうに答えた。
「そうしろって命令されたからだよ、それにあんたら怪しいし」
まあ確かにこのような閉鎖的な場所ではよそ者は歓迎されないし、証拠はなくとも身内の話を信用する。仕方が無い、このまま処刑されないことを願うしかない。逃げたところでこの島から脱出する方法はわからないのだから。カプリコーンの少年が言っていた言葉をようやく理解した。
「まあまあ、しょーがないじゃん。私たちがここにいる間に事件が起これば無実が証明されるでしょ」
古ぼけた硬いベッドに寝転びながらカルベネがのんきそうにしている。残念だが今はそれが起こるのを待つしかない。
「そーいうわけで一口ちょうだいよ」
「……だめよ」
同室のセシリアにきっぱり断られそれでもごねている。
「そういえばヴェロニカは何か見てない?俺窓から外にいるの見えたんだけど」
「いやタバコを吸い終わってすぐ戻っちまったから見てないな」
どうやらあの時入れ違いになっていたみたいだ。ヴェロニカはドカッと地面に腰を下ろすと持っていた酒を一口飲んだ。
「あー姉さん、それ私のじゃん、ねえちょっとちょうだい」
「だめ、すいませんこの人だけ犬小屋にしてください」
セシリアも冗談を言うようになるなんて、カルベネの陽気さが移ったのかもしれない。特にできることもないので俺たちはこの窮屈な牢屋の中で一晩を明かすこととなった。
「大変だ殺された!メアリーが殺された!」
翌日俺たちは監視の男の叫び声で起こされた。硬い地面で無理な姿勢で寝ていたので体が痛い。
「え?どうしたんですか?」
「メアリーが殺されたんだよ!」
パニック状態になっている男に落ち着いて説明するように伝える。
「それでいつどのようにして殺されたんですか?」
「今朝発見されたんだ、のどもとを噛まれていて、あれは絶対に狼の仕業に違いねぇ!お前たちが狼を野放しにしたんだろ!」
またもやいわれもない罪を着せられそうだがこれは逆にチャンスかもしれない。
「俺たちではありません、ここから出してくださいそれを証明しますから」
「どうやって証明なんてするんだよ。第一、あんたらを野放しになんてできない」
「仲間をここに置いていきます、俺だけでもいいので一度調査をさせてください」
なんとか男を説得し、上司に掛け合ってもらえるように言った。