第297話 正直者の狼少年
夜中、狼たちの姿を見た亜李須川
宿屋の管理人は近くの小屋で寝泊りしていたはずだ、暗闇の中必死に扉をたたいた。
「あの、すいませんちょっといいですか?管理人さんいますか?」
しばらく待っていると眠そうな顔をした男が小屋から出てきた。
「なんだよこんな夜中に、しょんべんだったらあっちにあるから」
「いや違うんですよ、狼がいて、向こう側に、羊をつれて、ただの狼じゃなくてこんな大きくて」
混乱と人に出会えた安心感でうまく言葉が出てこない。
「狼だと?どこだ?ちょっと待ってろ今みんなを呼んでくる」
そう言うと男は村の中央に向かって走り出した。あっという間に村中の人が集まってきた。
「あそこ、あっちの遠くのほうにいたんです、何匹もいました」
俺は羊の群れがいた場所にみんなを案内した。しかしそこはすでにもぬけの殻で羊の姿など一匹も見えなかった。地面の足跡をたどってみたが海岸で途切れてしまっていた。
「お前本当に見たのか?」
「本当です、ほらここに足跡があるじゃないですか」
暗闇の中、うっすらと見える砂浜の跡を指差した。
「じゃあお前の言ってる大群が海に潜って行ったっていうのかよ」
海はいつもどおり静かで何かがいたような形跡は無い。だが本当にこの目で見たのだ。そろった村人たちの疑うような視線が刺さる。俺は一緒についてきた仲間たちに目線を向けた。
「ヒロさんが嘘を言っているようには見えませんね、なぜ消えたのかはわかりませんが本当のことでしょう」
「そうよ、ぼさっとしてないで手分けして探しましょう。まだ近くにいるかもしれないし、足跡から狼の数と大きさがわかるんじゃない?」
フィリアナとニーナの言葉に村人たちは顔を見合わせている。
「そうだピヨちゃんとヴェロニカさん、空から探ってみてはくれませんか?私たちは牧場とここまでの道のりを検証しましょう」
フィリアナのすばやい指示に村人からの懐疑的な目は和らいでいった。そうだ落ち着いて考えれば今までだっていろいろな問題を解決できた。今回も同じように冷静にいこう。
「ま、待ってください!」
突然響き渡った声に全員が振り返る。声の主はメアリーだった。
「あ、あのこういうことをいうのは申し訳ないのですがありすがわさん、嘘ついてません?」
「え?どうして俺は別に……」
なぜ彼女がいきなりそんなことを言うのかわからないうちにメアリーは再び口を開いた。
「だって発見した場所の一番近くにいたのってありすがわさんですよね。ごめんなさい、だけど今日来て突然起こるなんて、そんなの不思議すぎます」
突然来たってこの問題は以前からあったものではないのか?
「いやでも俺一人じゃできないし……」
「ここの宿に泊まってるの、ありすがわさんたちだけですよね。騒ぎを起こして盗みをするつもりなんじゃないですか?」
メアリーの一言で状況は逆戻りしてしまった。村人の中には自分の家が無事か慌てて帰る人もいる。
「違うってなんでそんなこと、別に盗みなんてする必要ないじゃないか!」
「じゃあ全員が宿にいたこと証明できますか?管理人さんはいつも自分の家で寝ていますよね」
そんなことを言われては何も言い返せない。結局俺たちはいわれ無き罪で拘束されてしまった。