第294話 静かな小島
水和たちと話をしているうちに羊島へと到着した
俺たちは羊島の静かな砂浜へ荷物を引き上げた。浜にはだれもおらず、ただやわらかな波の音が繰り返し聞こえてくるだけだ。みんなも辺りを見回して人の姿を探している。
「うーん、だれもいませんね。近くに村があるといいのですが。あっあそこ、羊がいます」
フィリアナの視線の先には一頭の羊が立っていた。さすが羊島というだけあってお迎えも羊なのかもしれない。羊は小刻みに脚を動かしながらこちらへとやってきた。特に警戒する様子もなく俺たちの目の前で止まった。
「群れからはぐれたのかな?お前、どこから来たんだ?」
俺が羊に声をかけたときふと遠くのほうに女の姿が見えた。この羊の飼い主だろうか?彼女は見たことも無い人たちに戸惑っているようだ。
「あのこの羊あなたのですか?」
「あ、はいそうです。えっと……みなさんはどなたですか?」
疑惑の目を向ける少女にカプリコーンたちにここまで送ってもらったことを伝えた。
「なるほどそうだったのですね、でもなぜこんな島に?ここは観光で来る場所としてはおすすめできませんけど」
こちらへ近づいてきた少女のもとへ羊は返って行った。
「俺たち絶極大地に用があって、でもそこまで行く船には乗れなくて。ここの島から船は出てますか?」
「うーん、一応でていますが今はわけあってあまり本数はありません。でも聞いてみましょうこちらです」
俺たちは気さくな女の子の後に続いた。彼女は人間ではなくサテュロスに姿が似ている。しかしカルベネとは違い巻角で足の毛もストレートではなくふわふわした感じだ。同じような毛質の長い尾がぷらぷらと生えている。もしかしてこの羊島というのはここに住んでいる住人が羊のようだからなのかもしれない。
島の様子は全体的に静かでのどかな田舎道と言った感じだ。どこまでも続く広い草原に遠くに見える林、舗装されていない道路。ここを馬に乗って走ったら爽快だろう。
しばらく進むと遠くに村が見えてきた。木で作られた古い家が立ち並んでいる。すると後ろから大柄な女が木材を担ぎ追い抜いていった。
「おー?こんなお客さんめずらしいね。ここいらじゃ見ない装いだけど、こんな田舎に何しに来たんだ?」
彼女もサテュロスに似ているが頭の横から生えた大きな角とがたいの良さは牛を連想させる。よそ者の俺たちを疑っているようだ。
「始めまして、俺たち絶極大地に行く予定なんです。世界中を旅してて」
「ふーん、船はあるけど今はいい時じゃないね。まあゆっくりしていきなよ」
そう言うと女は先に行ってしまった。懐疑的な目で見られるのは当然だ。なんだかわからない集団が突然ふらっと現れたのだから。
「さあつきました、ここが私たちの村、みんなは羊村と呼んでいます。だってここは人の数より羊が多いところですから。少し待っていてください船の様子を聞いてきます」
彼女は優しく微笑むと入り口に俺たちを残し、村へと入っていった。