第293話 あべこべなカプリコーン族 2
カプリコーン族の引いている船に乗せてもらった一行
そういえば水和は人魚だと言っていたがどうやらそれは本当のようで、一緒に船を引いてくれている。よく見ると水面にうっすらと魚の尾の影が見え隠れしている。水に浸かると人魚になると言ってはいたが、どうやって変身したのだろう。
「本当に人魚なんだな、でも人の足はどこへいったんだ?まさか悪い魔女に変えてもらったとか?」
「悪い魔女?いえ水に浸かると足がくっついてヒレになるんです。仕組みはよくわかりませんが僕たち和人魚は陸にあがれるんです。まあすぐには立てませんけど」
陸と海、両方で生活できるなんてすべての生き物がうらやましがりそうな能力だ。だが残念なことに彼らの種族は陸にあがることを禁止しているみたいだが。
「ねえ私まだこれやらなきゃなんないの?ハア、退屈」
隣で娘が大きなため息をつく。
「こら、これが仕事なんだから……」
「ハアーたたでさえダサイのにこんなことやってたら私友達いなくなっちゃう。ホント、イケてない。ダサイ山羊女ってみんなから笑われるのなんてもううんざり」
父親がなだめるも娘はさらに愚痴をこぼす。まあなんとなくわからなくもない、きっと自分が山羊に似ていることが嫌なのだろう。かわいらしい生き物だがかっこいいというより家畜でむしゃむしゃと草を食べているイメージだ。
「つかさぁあなたたち何?探検家?なんでこんな種族がバラバラなの?」
退屈している彼女に今までの俺たちの冒険の話を聞かせてあげた。始めは怪訝そうな顔をしていたが次第にいろいろと質問をしくてるようになった。
「へぇーで?そのグリフォンとやらに食べられそうになったんだ。いいなー私も見てみたいあー足があったらこんな場所さっさと出て行くのに」
「それはおすすめしないな、少なくとも海ではグリフォンに会わずにすむから」
不思議そうな顔をしているが信じて欲しい、会ったが最後生きては帰れないだろう。そんな話をしていると前方に緑が生い茂った島が見えてきた。
「ほらお客さんあそこが羊島です」
大きくは無いがなかなか良さそうだ。男は船を近くの海岸につけてくれた。代金を支払い二人の子供、それから水和にチップを渡した。
「えっいいですよだって助けてもらったのに」
「いや俺も助かったから、おじいさんによろしくな」
水和はぺこりとお辞儀をした。ここで初めてあの無表情だった少年が口を開いた。
「あのさ……銀じゃ水の中で錆びちゃうんだよね。金にしてくれない?」
まったく、ちゃっかりしている。本当かわからないが仕方がないので金貨と交換してあげた。四人は最後にあいさつをすると水の中へと戻って行った。去り際に少年はふと足を止めると少し後ろを振り返った。
「羊島からは早く出たほうがいいよ」
そうつぶやいて海の中へと沈んでいった。