第289話 海の民、和人魚族 3
少女が泥棒ではないと漁師たちを説得した
漁村から少し離れたところに他の仲間たちがキャンプを作って帰りを待ってくれていた。俺たちの姿を見たフィリアナが早速、駆け寄ってくる。
「お二人ともお帰りなさい、遅くまでお疲れ様ですいかがでしたか?」
「えーっと、物資は手に入ってそれからこの子に出会ったんだ」
俺の後ろについて来ていた人魚の女の子がぺこりとお辞儀をした。彼女を見てみんな不思議そうな顔をしている。
「どうやら船に当てがあるみたいで、もしかしたら紹介してくれるかもしれないんだ」
「そうですか、それはよかった。さあこちらに座ってお茶でもどうぞ」
フィリアナに促され女の子は焚き火の近くに腰掛けた。ポリーンが温かいお茶を差し出す。
「ありがとうございます。すいません、助けてもらったのに。僕は水和と申します。きっとみなさん僕のことを疑問に思っているでしょうから一からお答えしますね。まず僕は人魚です、和人魚、半魚人とも言います。今は人の姿ですが水に入ると足がひれになります。それからあの網が破られていた理由、それはここらで怪物が出現しているからです」
怪物と聞き嫌な予感がする。今から海に向かおうとしているのに聞きたくないニュースだ。
「怪物というのはウデュラスという足の生えた大きなサメのような生き物でそれが網を破っているのです。僕はいつも漁師が海から投げ捨てるいらない魚をもらっていました。だから泥棒と勘違いされてしまいました」
「ふーんで、そのウデュなんとかって言うのは今どこにいんのよ」
ニーナが腕を組みながら身を乗り出す。みんなの真剣な視線が一斉に水和に集まる。
「それは……わかりません。たびたび追い払ってはいるのですが、もしかして繁殖期なのかそれとも別の理由があるのかそれもわからないんです」
どうやら人魚たちも手を焼いているようだ。
「それで俺たちが乗る船は大丈夫なのか?」
「それもどうでしょう。大体深いところにいますから上のほうには上がってこないそうですので大丈夫かと。手配はできると思います、まあ豪華な旅という風にはなりませんが。ちなみにどちらへ?」
豪華でなくとも安全ならそれだけで十分だ。俺は地図を見せ、行き先を伝えた。
「えっそれは結構遠いですね、そこまでは直接いけないと思います。一度、羊島で留まってそこから別の船でいくのがいいと思いますよ」
なるほど、地図で見た感じでも少し離れているのが見て取れる。その羊島は名前からしてなかなかのどかそうな場所だ。一日か二日留まってもいいだろう。
こんなことをしているうちにすっかり夜になってしまったので、今日は一緒にキャンプで休んでいくよう勧めた。